自動車メーカーが自動車のHMIをデザインする際に大きな課題となるのは、世界のさまざまな地域の特性に、機能やパーツをいかに適合させるかです。とくに世界最大の自動車生産国である中国の特徴を理解することは、重要でありながらも簡単ではありません。
中国は世界でも断トツの自動車大国です。2021年に中国は2,608万台の自動車を生産。これは第2位のアメリカの生産台数917万台の2倍以上です。その規模の大きさに加え、HMIのテクノロジーは自動車製造において重要な役割を担うため、自動車HMI市場の最新動向を常に把握しておくことが大切です。中国の消費者はテクノロジーを重視しており、コネクティビティ(接続性)の搭載を当然のことだと考えています。そのため、アリババやテンセントといったテクノロジー大手は、自動車会社と協力し、興味深い方法でHMIの開発を進めて、シームレスでパーソナライズされた車内体験の創出に取り組んでいます。
各国の自動車メーカーが影響力のあるこの市場を理解できるよう、Starは中国の自動車ブランド各社について調査し、HMIの傾向や相違点、活用事例などを明らかにしました。調査結果の詳細は、レポート『中国における自動車HMIの特徴』でご覧いただけます。
本記事では、中国のHMIデザインを牽引する7つのトレンドについて、その概要を紹介します。
中国のHMIにおけるマルチモーダル化への動き
マルチモーダルHMIとは、音声、触覚、つまみ、顔認識など、複数のインタラクションモードを組み合わせて、ドライバーや同乗者により柔軟で直感的な体験を提供する仕組みのことです。中国のHMI市場は、このような新しいコミュニケーション方法の導入や創造的な統合の最前線を走っています。たとえば、コンパクトSUV電気自動車「XPeng G3」のルーフには「フィン」が取り付けられています。立ち上がって回転するこの装置は、実はカメラで、ユーザーが携帯電話やハンドジェスチャーを使って車内から操作できる仕様になっています。
また、2018年に中国のHMIに登場した顔認証は、Leapmotor S01、Chery Exeed TX、WEY VV6、WM Motor EX5、Geely Xingyueなど、さまざまな中国の自動車モデルに搭載されるようになっています。今後もHMIデザインの一部として、とくに支払い決済時に顔認証を採用する車種が増えていくと予想されます。
中国の自動車業界における「コボット」の存在感
車載コンパニオン(コボット)は、欧米市場よりもアジアでいち早く普及が進みました。中国の自動車HMIの多くには、音声で作動する車載アシスタントが搭載されており、運転体験に付加価値を与えるだけでなく、「格好いい」要素にもなっています。自動車メーカーは、脅威を感じさせない、かわいらしい見た目のコボットをデザインし、「コンパニオン」や「ガーディアン」といった親しみやすい名称で呼ぶことでユーザーの支持を得ています。このようなコボットは、適切に導入されれば、ワンストップで自動車のほぼすべての要素を操作・管理できる、自動車HMIを象徴する存在になります。
中国の自動車で人気のOSとは
中国の自動車メーカーは、汎用性のある車載HMIシステムにより、コネクテッドエコシステムに対応しています。Geelyのスマートエコシステム「GKUI」は、中国で急成長しているインテリジェントコネクテッド車載システムの1つで、100万人のアクティブユーザーを抱えています。GKUI 10では、XiaomiやBaiduといった人気のテクノロジー&サービス企業のスマートデバイスと接続して、車内から家庭やオフィスの製品をコントロールできるようになっています。
中国の自動車HMI市場で人気を博しているその他のオペレーティングシステムとしては、BYD DiLink、GAC ADiGO、SAIC Banma、Chery Lion、NextEV NIO OS、Xpeng Xmart OSなどが挙げられます。これらのシステムは高度な機能をサポートし、自律走行機能に対応しているものもあります。継続的なアップデートにより、新しいサービスの統合や高度なテクノロジーを組み込みながら、さらに発展を続けています。
コネクテッドカーアプリの台頭
中国の自動車ブランドの多くは、人気の車載アプリを組み込み、ドライバーがハンズフリーで操作できる音声機能も導入しています。トレンドのコネクテッドカーアプリには、Facebookのような世界的なサービスと、人気メッセージングアプリWeChatのような中国市場特有のものの両方が含まれます。たとえば、テンセントのAuto Intelligentプラットフォームは、自動車用WeChatのカスタム音声バージョンに対応しています。Leading Idealも、OTA(無線通信経由)アップデートにより、同社の自動車をWeChatに対応させることを発表しました。ドライバーは、ハンドル上のボタンを押すだけで、WeChatアプリを起動できる仕組みです。
車載HMIを象徴する、きらびやかなディスプレイ
現在、中国で販売されている自動車には、モバイルスマート端末や次世代コックピットとも呼べるようなダッシュボードが搭載されています。そのダッシュボードからセンターコンソール、後部座席からバックミラーに至るまで、随所でディスプレイ技術による印象的なHMI体験が実現されています。さらに、トヨタ自動車や電気自動車メーカーHozon Autoは、ドライバーの死角を減らすために透明なAピラーを採用した車種も発表しています。
調査レポートでは、このほかにも、回転式タッチスクリーン、3Dバーチャルインターフェイス、湾曲型スクリーンなど、中国の未来的なHMIディスプレイの例を紹介しています。このようなインターフェイスは多くの場合、複数のユースケースに対応しており、ドライバーや同乗者はエンターテインメントと実用機能をシームレスに切り替えて利用できるようになっています。
中国のHMIでは空気清浄機能の搭載が標準に
新型コロナウイルスの感染拡大以降、どの国の消費者も衛生機能に注目するようになりました。それに加え、中国では大気汚染の問題もあり、パンデミック以前から空気清浄機能の搭載が一般的でした。
そのため国外の自動車メーカーが中国に進出する際、市場のニーズに合わせて空気清浄機能を追加するケースが見られます。たとえば、中国向けに開発されたフォルクスワーゲンのTiguan Lは、汚染された空気から危険な粒子を除去する空気清浄機能を備えた空調システムを搭載しています。テスラも「生物兵器防衛モード」と呼ばれる汚染物質に対応するフィルターシステムを提供しています。
Geely AutoやXpengなど一部の自動車メーカーは、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、有害な細菌を自動的に死滅させる技術を導入し、空気浄化機能をアップデートしています。
大規模な普及が間近の自律走行機能
今後10年以内に、中国ではインテリジェントコネクテッドヴィークル(ICV)および自律走行が大きく普及すると予想されています。それを背景に、自律走行をサポートする安全機能や、運転を魅力的な体験に変えるインフォテインメント機能など、自動車HMIへの機能統合や新技術の導入が進むと考えられます。複雑さが増すなかで、中国向けのHMI開発を成功させるには、シンプルさ、ユーザー中心のデザイン、複数システムの統合、最先端技術の導入がポイントになるでしょう。
中国市場に適した、最先端の自動車HMIの構築を目指す企業はもちろん、他の地域で傑出したクルマを生み出したい企業も、中国におけるHMIのトレンドから有意義なインスピレーションが得られるはずです。
Starには、自動車HMIのデザインと構築を専門とするチームがあります。ぜひ一度ご連絡ください。私たちがお手伝いできることについて、詳しくご説明します。