概要
都市部では自動車や公共交通機関に代わり、電動スクーターやeバイク、eモペッドといったオープンエア型の乗り物が、柔軟でコスト効率が良く、環境に優しい交通手段として普及し始めています。成長を続ける世界の超小型モビリティ市場を理解するために、Starは北米、欧州、アジア太平洋地域でラストマイル交通を担う主要な企業を分析。車両にはどのような先進技術が搭載されているのか? レンタル事業者は安全を確保し、ユーザーにくり返し使ってもらうためにどのような施策を講じているのか? 成功している企業にはどのような共通点と相違点があるのか?といった疑問への答えを探りました。
新型コロナウイルスの世界的流行で打撃を受けた超小型モビリティ業界は、今、力強い回復を遂げようとしています。Market Research Futureのレポートによると、世界の超小型モビリティ市場は2025年までに1500億米ドル規模に達すると予測されています。従来から消費者や自治体は、自転車や電動スクーターといった軽量な乗り物の利点を評価していましたが、パンデミックを受けて、持続可能で安全·柔軟な移動手段の重要性がさらに広く認識されました。マッキンゼー·アンド·カンパニーの世界的な調査によると、移動手段のシェアサービスを定期的に利用したいと考えるユーザーの割合は、パンデミック前に比べて12%増加しています。また、自転車や電動スクーターを短距離の移動以外にも活用したいというユーザーも増えています。
政府の支援も後押しし、世界各地の都市部で超小型モビリティのサービスやインフラへの投資が進んでいます。イタリアのミラノは、パンデミック時に交通量と大気汚染が減少したことを受けて、自動車用の車線を自転車·電動スクーター用のサイクリングレーンに変更するという野心的な計画を発表しました。欧州ではこの他にもローマ、ボローニャ、リスボン、バルセロナ、パリなど、サイクリングレーン設置への投資を始める都市が増えています。このような状況のなか、世界的なシェア争いを制するのはどの企業でしょうか? ここでは、スクーターのシェア事業を展開する企業がライバルを引き離すための、3つのキーポイントをご紹介します。
ユーザーの困りごとに対応して差別化を図る
Starの分析から、業界内で重視されている共通のサービスや機能があることがわかりました。例えば、残りの充電で走行できる距離や時間の推定値を提示する機能です。これにより、目的地に到着する前に電動スクーターや電動バイクの電池が切れるのではないかと心配になる「航続距離不安」を解消します。一方で、業界をリードするスクーター事業者の中には、他社とは違うアイデアでユーザーの課題を解決し、乗車体験を向上させている企業もあります。
欧州で超小型モビリティの提供やスクーターのシェア事業を展開しているTIER Mobilityは、ユーザーが消耗したバッテリーを充電済みのものと交換できるバッテリー交換ステーション の設置を地元企業に呼びかけ、欧州の都市部に共同の充電ネットワークを構築しようとしています。同じく欧州の超小型モビリティの主要企業であるWindは、スクーターのフロントパネルに携帯電話のワイヤレス充電器を搭載しました。これは「携帯電話の電池が切れたらどうしよう」という多くのユーザーが抱える不安を解消すると同時に、同社のスクーターの保護にもつながります。顧客調査によると、36%のユーザーが、目的地に到着した際に携帯電話の電池が切れていたためスクーターをロックできなかったことがあると答えているからです。
テクノロジーとパートナーシップで、車両の安全性を向上
超小型モビリティ市場が世界的な成長を遂げていることは間違いありませんが、自治体や地域住民、ユーザーは、依然として安全性について疑問や不安を抱いています。企業はこれに対し、カメラ、センサー、AI、音声、インテリジェントダッシュボード、GPSなどを活用して、ユーザーの身元確認や事故の検知·防止に取り組んでいます。米国カリフォルニア州サンノゼでは、超小型モビリティ企業のBoltが内蔵のセンサーとAIを使って、電動スクーターが禁止されている歩道走行をしていないか検知する新機能のテストを始めています。
違法行為やリスク行動の検知は重要ですが、より効果的なのは未然に防ぐことです。Starの分析によると、ユーザーにインセンティブを与えてオンラインの安全講習を受けるよう促す動きもトレンドになっています。Voiでは50万人以上のユーザーが同社のオンライン交通講座 を受講。このデジタルプログラムの参加者には、次回以降の乗車で使えるクレジットが付与されます。TIERも同社のデジタル学習プログラム「Ride Safe School」への参加を促すために、修了時に無料利用券を進呈しています。サードパーティの企業や機関と連携して、プログラムの品質を高め、未来に向けて安全性やコンプライアンスを確保しようとする動きも見られます。TIERのプログラムはAAのDriveTechと共同で作成され、LimeはMotorcycle Safety Foundationと提携して、オンラインの安全講座を構築しています。このようなコラボレーションが、公共交通機関に匹敵するようなモビリティのシェアサービスの実現につながっていくでしょう。
カスタマージャーニーへの包括的なアプローチ
超小型モビリティ業界をリードしていくのは、ユーザージャーニーの全体像を描き、それを育む企業です。そのためには顧客のニーズや好みを理解し、優れたユーザーエクスペリエンスを生み出して、あらゆる過程でブランドロイヤルティを高める必要があります。好み·トレンドの変化や新しいテクノロジーに対応して、シェアリングサービスを差別化するためには、常に新しい機能を提供し続けなければなりません。その際に見失ってはならないのが、ユーザーエクスペリエンスの全体像です。どの機能の追加や変更も、ユーザージャーニーの効率化や強化につながるものでなければなりません。そうすることで初めて、モビリティのシェアサービスは、新しい交通手段として広く受け入れられていくでしょう。