スマートフォン全盛の今、多くのことがテキストを中心に処理されているため、音声が持つ力を忘れがちです。しかし実際、音声テクノロジーは、利便性や有意義なコミュニケーション、スムーズな操作といった数々のメリットで、ヘルスケアの変革に貢献しています。音声を活用したヘルステックソリューションについて、この分野を専門とする4人のリーダーが集まり、ディスカッションを行いました。
その洞察に満ちた会話から、ヘルスケア分野で拡大している音声の役割、普及に向けての課題、そしてすぐに実践を始められるステークホルダーのエンゲージメントを推進する方法について、ともに探っていきましょう。
ヘルスケア分野での音声活用の広がり
現在の医療システムは、複雑でコストがかかるほか、人口の高齢化、労働力の縮小、人々全体に広がる健康問題といった試練にもさらされています。
技術者や医療専門家でない人々は、音声がヘルスケアを変革する可能性を見逃しがちです。多くの人は音声テクノロジーと聞けば、AlexaやSiriといった一般向けに普及している機能を思い浮かべるでしょう。実際、ヘルスケア分野の音声ソリューションでも、Alexaを直接または間接的に利用しているものが多くあります。しかし、それ以外にも、音声の活用には、この分野独自のメリットがあり、実際の医療現場に大きな影響を与え始めています。
Teri Fisher氏はカナダでの医師としての経験から、ヘルスケア分野に音声テクノロジーを広く導入することが世界的に重要だとして、次のように話します。「現在の医療システムは非常に大きな重圧にさらされています。そのため、その重圧を和らげる仕組みがあれば、医療システム、ひいては社会全体に多大なメリットをもたらすのです」
ポッドキャストでは、音声がヘルスケア分野に与える影響について意見が交わされました。その重要なポイントの一部をご紹介します。
- 音声の導入はユーザー中心のアプローチに貢献:この30年間、私たちはグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)の使用に慣れてきました。特にスマートフォンが普及している現在は、それを当然のことだと考えがちです。ただ、機械は人間とは異なる言語を扱っているため、ユーザーの要求を完全にスムーズにアクションへと変換できているとは言えません。音声による対話はこの障壁を取り除き、重要な利便性をもたらします。
- デジタルフロントドアでの活用:これも今回の話の中で最も重要な知見のひとつです。David Boxは、音声技術は患者さんのケア以外にもメリットをもたらすと言います。「デジタルフロントドア(ユーザー接点)の観点から、音声には大きな可能性があると考えています。アポイントメントの予約・調整や保険の確認など、患者さんのオンボーディング時にボットなどの機能を活用するのです」。それにより、患者さんがシステムを使い始める際の敷居が下がり、医療提供者も自らの時間を効率的に利用できるようになります。
- デジタルフロントドアでの活用:これも今回の話の中で最も重要な知見のひとつです。David Boxは、音声技術は患者さんのケア以外にもメリットをもたらすと言います。「デジタルフロントドア(ユーザー接点)の観点から、音声には大きな可能性があると考えています。アポイントメントの予約・調整や保険の確認など、患者さんのオンボーディング時にボットなどの機能を活用するのです」。それにより、患者さんがシステムを使い始める際の敷居が下がり、医療提供者も自らの時間を効率的に利用できるようになります。
- ポイントは「V-O-I-C-E」:Teri Fisher氏は、音声テクノロジーがヘルスケアに与える影響を次のようにまとめました。
V – 用途が広い、多目的、融通がきく(versatile)
O – 遍在的、あらゆる場所で利用できる(omnipresent)
I – 自然、直観的(innate)
C – 文脈的(contextual)
E – 効率的(efficient)
この5つを体現するソリューションをヘルスケア企業が創出できれば、音声が持つ力を最大限に活用できるでしょう。
Apple Podcastで登録する | Spotifyで登録する
ポッドキャストは英語で提供しています
何が音声サービスの普及を妨げているのか?
音声がそれほど優れているなら、なぜまだ十分に普及していないのかと疑問に思われるかもしれません。Davidは、その最大の障害は「規制とコンプライアンスの問題です。例えば、患者さんの疾患に関する情報を、公の場で話すのは簡単ではないケースがあります」と指摘します。
テクノロジーへの信頼もまだ十分とは言えません。ただ、これは患者さんからではなく、医療提供者側から出ている懸念であると、Teri Fisher氏は指摘します。「このテクノロジーをヘルスケア分野に本気で導入しようとする勇気のある人がいないのです」
Tomasz Jadczyk氏は、自身とシダーズ・サイナイ病院の研究者が行った最近の研究を紹介し、患者さんと医療提供者との間の認識の不一致について説明を加えました。「興味深いことに、高齢の患者さんほど、音声技術の使用を受け入れています。自然な方法で使えるからです。つまり、高齢の患者さんは音声テクノロジーを導入する敷居が比較的低いと考えられ、導入対象として適していると言えます」
話す内容だけでなく、話し方も解釈される
ポッドキャストに登場した4人全員が、音声テクノロジーには、これらの課題を乗り越え、規模を拡大していく力が十分にあると考えています。Davidは、何よりもまず上記の課題の多くは「音声だけではなく、テキスト、ウェブ、モバイル、その他のエンゲージメント方法を含めたマルチモーダルアプローチで」克服されるだろうと話します。つまり、音声は、包括的・統合的なユーザーエンゲージメント戦略の一部として考えるべきものです。
Nathan Treloar氏は、音声や人工知能といった新技術の重要性について言及し、自動化されたボットにより、新型コロナウイルスのワクチン接種において人々のエンゲージメント率が高まり、医療従事者の作業時間を大幅に短縮した例を紹介しました。「コールセンターの場合、エンゲージメント率は約30%です。つまり、ワクチン接種に申し込んだ人の70%は、予約通りに会場に来るかどうかの確認がとれていません。一方、自動化されたボットを使うと、その率が最大80%まで高まります」
音声が持つ潜在力はこれらだけには留まりません。実際に変革はすぐそこにまで迫っています。Teri Fisher氏は、人間の会話には、実際に話される言葉以上の意味合いが含まれることに言及しました。例えば、子供に学校での1日の様子を聞いて、「素晴らしかった」という答えが返ってきた場合でも、その声の調子によって意味するところが変わってきます。
Teri Fisher氏はこう続けます。「コンピューターも声の調子を検出できるようになってきています。つまり、音声を使って、メンタルヘルスの問題、うつ病、不安神経症といった疾患の推定が可能になり始めています」
これは音声バイオマーカーと呼ばれる技術です。SF小説の世界の話のように聞こえるかもしれませんが、すでに現実になっています。Nathan Treloar氏は、10秒間の発話音声から人の心拍数を抽出できることを実証した研究を紹介しました。このような音声を使って解釈・学習するヘルステックイノベーションが、今後も登場してくると予想されます。
ヘルスケアにおける音声の潜在力と可能性
音声テクノロジーがヘルスケアに与える影響について、デジタルヘルスの専門家による知見の一部をご紹介しました。これ以外にもポッドキャストでは、次のようなテーマも議論されました。
- エコシステム全体における、その他の活用事例
- 高齢者への対応におけるアンビエントリスニングの役割
- 音声アシスタントとの感情的なつながりの形成
- データのプライバシーや規制に関する課題への対処
その他、聞き手が人間の医師である場合よりも音声アシスタントである場合の方が、正直に話す患者さんがいることなど、意外な事実も明らかにされました。最後に、Nathan Treloar氏はリスナーに向けて、このテクノロジーは遠い未来の夢ではなく、今すぐに活用できる状態にあるとして、こう述べました。「音声テクノロジーには、現在実現している機能以上のものをもたらす力と可能性があります」
このような知見を吸収し、音声を利用したヘルスソリューションの導入方法を探っていきましょう。