自動車およびモビリティ(A&M)業界は、さまざまな破壊的革新の力が合流する場所になろうとしています。そのなかで既存型の企業は、ビジネスモデルの見直し、消費者の移動習慣の変化、新興の電気自動車(EV)企業による競争力の高いモデルの登場など、自社の存在意義に関わる課題に直面しています。
Starは最近、未来のフレームワークとトレンドを描いた「10Forward」を発表しました。そこでは、技術革新と繁栄の度合いをもとに、今後10年で自動車&モビリティ分野がどのように進化するのかを探っています。なかには極端に思われるものもあるかもしれませんが、その4つのシナリオで描かれているトレンドや移動習慣は、業界のリーダーたちに、8〜10年後のビジネスの姿を予測し、未来から現在を逆算して、今何をすべきかを考えることを促すものになっています。
電動化、SDV、新しい収益モデルという3つの力
今後3年間で、電動化、ソフトウェア定義型車両(ソフトウェア・デファインド・ビークル、SDV)、新しい収益モデルが、自動車メーカーにとって成功の三大要素になると考えられます。このトレンドはそれぞれ個別の分野のものだと思われるかもしれません(たとえば、電動化は製品開発、SDVはソフトウェアエンジニアリング、収益モデルは販売・マーケティングの話であるというように)。しかし、ビジネスの変革という観点では、これらはすべて相互に深く結びついています。
- 消費者の体験と信頼:この3つのトレンドはいずれも、消費者がブランドをどう認識し、それとどう関わるかに影響を与えます。電動化は、よりクリーンなテクノロジーによって運転体験を再定義します。SDVは、車内でのインタラクションや車外との接続においてパーソナライゼーションを進めます。収益モデルの革新は、顧客満足度を向上させ、ブランドロイヤリティを高めます。
- ビジネスインフラ:それぞれの要素を実現するには、ビジネスインフラへの多額の投資が必要になります。電動化には、バッテリー技術と充電ネットワークの強化が求められます。SDVには、高度なソフトウェア開発能力が必要です。新しい収益モデルには、従来の販売方法やバックエンドシステムの全面的な見直しが必要となる可能性があります。
- 新しい収益源:車両販売とスペアパーツ(SMR)を基盤とした、自動車メーカーの従来の収益モデルは、その存在が脅かされようとしています。電動化が進めば、バッテリーサービスや充電インフラを通じた新たな収益源がもたらされる一方、必要となる部品が減ることで、スペアパーツ事業の利益が脅かされることになります。SDVは、サブスクリプションやデータ活用型のサービスを通じて継続的な収入を得る機会を生み出す一方で、リース利用の増加やテクノロジーの進歩により、スペアパーツへの依存度は低下するでしょう。このような事態に適応するために、自動車メーカーは収益源を多様化させる必要があります。ADAS(先進運転支援システム)や車内エンターテインメントなどのサブスクリプションサービス、予測メンテナンスのようなデータ主導型サービス、EV向けの革新的なファイナンスソリューションや新しい所有モデルなどを提供できれば、急速に変化する業界において、財務的なセーフティネットとなるでしょう。自動車メーカーはこのパラダイムシフトを受け入れることで、財務面での将来性を確保し、進化する自動車&モビリティ業界で競争力を維持できるはずです。
電動化:EVが普及する未来へのカギ
新しい習慣を形作るうえで重要になるのは、エンドユーザーとの信頼関係です。電動化においても、いかに信頼を得るかがポイントになります。電気自動車(EV)の普及は、バッテリーの信頼性、充電速度、充電ステーションの普及度、航続距離など、信頼に関係する要因によって左右されるからです。ドライバーにとって、これらは目的地に安全かつ効率的に到着するうえで重要な要素です。そのためStarは、自動車メーカーが消費者にとって信頼性が高く魅力的なEVを提供できるよう支援します。私たちは、EVが現在そして将来のインフラにシームレスに統合される未来を思い描いています。それを支えるのが、バッテリー性能や充電ソリューションを向上させる技術革新です。
- 短期的に考慮すべきこと:自動車メーカーは、自社のEVの航続距離を伸ばして、充電回数を短縮するために、バッテリー開発や充電ネットワークを手がける企業との提携に投資すべきです。バッテリー交換技術の試験プログラムの実施や、公共の充電ステーション設置を促進するための地方自治体との連携といった取り組みも考えられます。
- 10Forwardの展望:「Ecolysium」のシナリオで描いたように、2034年にはEVの普及を促すインテリジェントな道路が実現しているかもしれません。駐車場を手がける企業との提携などの取り組みにより、駐車スペースに埋め込まれたバッテリーパッドから、自動車の受信コイルにエネルギーを転送できるようになる可能性もあります。充電スタンドを事前に予約する必要がなくなり、映画を見たりショッピングをしている間に充電が完了する、そんな未来も想像されます。
SDVと新たな収益モデル:車両が人々のデジタルエコシステムの一部に
この先10年間で、人々による自動車への見方が根本的に変わるでしょう。まず今後3年間で、さまざまな企業がEVをどう位置づけるかについて大きな変化が起こるはずです。たとえば、中国の家電ブランドは、最新のEVをスマートフォンから接続できる車として位置づけています。これを見れば、エンジン出力や車両デザイン、ブランドイメージを販売促進や差別化の手段としてきた従来型の自動車メーカーとは、まったく異なる価値を提案していることがわかるでしょう。テスラのような確立されたEVブランドも、自動車をユーザーのデジタルエコシステムに不可欠な要素とすることで、消費者体験を向上させようとしています。
つまり、自動車は単なる移動手段ではなく、IoT(Internet of Things)デバイスでもあるのです。それは、エンドユーザーが個人のニーズを満たすための基盤としているデジタルエコシステムと、シームレスに統合するデバイスです。ソフトウェア定義型車両(SDV)へのシフトは、ビジネスモデルを根本的に変え、従来の自動車販売以外の新たな収益源を切り開くでしょう。高品質なデジタルサービス、階層型のソフトウェアアップデート、統合されたサードパーティのサービスなどのサブスクリプションモデルは、どれも継続的な収益をもたらす可能性があります。たとえば、AIによる高度なパーソナライズ機能、予測的なメンテナンスアップデート、あるいはユーザーの好みや習慣に合わせたプレミアムエンターテインメントパッケージなどを、月額制で提供することなどが考えられます。
- 短期的に考慮すべきこと:自動車メーカーは、独自のオペレーティングシステムの開発への投資に力を入れるべきですが、同時に、AppleやGoogleなど広く使われているエコシステムとの提携も引き続き行い、顧客の好みや行動へのシームレスな統合を確保する必要があります。オペレーティングシステムの開発は、自動車メーカーにとってまだ初期段階にあります。独自開発のOSであれ、サードパーティのOSであれ、自動車メーカーは最終的に目指す将来像(エンドゲーム)を常に念頭に置いて、コネクテッドで摩擦のないユーザー体験を生み出していく必要があります。また、デジタルバリューチェーン全体におけるパートナーシップを強化することも重要です。たとえば、モバイルテクノロジー企業、アプリ開発企業、さらにはフードデリバリーアプリやeコマースプラットフォームなどのサービスプロバイダーと連携することで、車両内で一貫したデジタル体験を創出できます。
- 10Forwardの展望:Starが描いた2034年には、車両は単にデジタル/物理的なインフラストラクチャに接続されているだけでなく、それとアクティブに関わり合うようになっています。将来的には、たとえば、その日のスケジュールに合わせて自動的に同期し、運転ルートを事前に設定したり、時間や天候に応じて車内の環境を調整したり、さらにはダッシュボードから直接サービスの取引をしたりする車が登場するかもしれません。車が自宅のAIと通信し、車に取り付けられた個人用のドローンで好みのレストランから食事が配達される、そんな未来を想像してみてください。
最終目標を見据えて、デジタルジャーニーに出発
この変革の旅路において何より大切なのは、顧客との信頼関係を中心において考えることです。変革プロセス内のあらゆるイノベーション、デジタルソリューション、コスト施策において、信頼について考慮する必要があります。また、デジタル化が進む世界において、消費者が自動車をデジタルエコシステムの一部と捉えるか、単なる移動手段と捉えるか(後者は若い世代に多い見方です)にかかわらず、安全の重要性はいくら強調してもし過ぎることはありません。ドライバーと乗客が目的地に安全に到着することは、戦略の第一目標であり続けるべきです。
今回紹介した3つの成功要因をうまく開発・統合しながら、ブランドの信頼と評判を高め続けられる企業は、将来に向けて有利なポジションを確保できるでしょう。これらを統合するアプローチにより、強力なブランドイメージを獲得し、業務効率を向上させ、急速に進化する環境下で影響力と競争力を維持する能力を備えることができれば、デジタルビジネスへの移行を成功に導けるでしょう。