新型コロナウイルスの流行以降、さまざまなフィンテック関連サービスの利用が急増しています。「電子ウォレット」もそのひとつです。
電子ウォレットは2020年時点で、eコマース(44.5%)と店頭(25.7%)の両方において、最も利用される決済手段となっています。現金はもちろん、クレジットカード、デビットカード、銀行振り込みなど、他のすべての決済手段を上回っており、今後5〜10年でさらに普及が進むと予想されます。
出典:FIS「グローバル決済レポート」
本記事では、電子ウォレットが扱う資産タイプや決済手段、そして消費者、企業、ペイテック(PayTech)企業にとっての電子ウォレットのメリットについて、詳しく見ていきます。
電子ウォレットが扱う資産タイプと決済手段
電子ウォレットとは、資産の保管と決済の機能を組み合わせたサービスのことで、パソコンやスマートフォンを使ったオンライン取引で使用されます。デビットカードやクレジットカードが提供するサービスと似ていますが、電子ウォレットはデジタル化された仕組みを用いるため、物理的なカードや財布を持ち歩く必要がなくなります。
では、電子ウォレットのビジネスモデルは、加盟店、スタートアップ、フィンテック企業にとってどのように作用するのでしょうか? 主流の資産タイプを扱う場合に、資金を安全に保管できるという機能は共通していますが、それ以外はどのような資産モデルと収益構造を持つ電子ウォレットを選ぶかによって変わってきます。電子ウォレットは、次のようなモデルに分類されます。
- クローズド型ウォレット:資金を保管する機能に加えて、ウォレットの発行元のみと取引が可能なモデルです。例のひとつであるAmazon Payでは、キャンセル時の返金等もウォレット内で行われます。製品やサービスを販売する企業にとっては、このクローズド型ウォレットに最大のビジネスチャンスがあるでしょう。ウォレット内の資金から少額の利息を得るビジネスモデルもあります。
- セミクローズド型ウォレット:契約した店や企業と取引を行えるモデルで、加盟店とユーザーの両方にとって、クローズド型より自由度が高いというメリットがあります。例としてはPayPalが挙げられます。このようなプラットフォームでは、オフライン/オンラインで使える電子マネーをウェブ上で集中管理し、一元管理するウォレットに対して発行できます。
- オープン型ウォレット:一般的に銀行や、銀行と提携している機関が開発しているもので、VISAやMastercardのように、大半の小売店で利用できるシンプルで安全性の高いモデルです。セミクローズド型ウォレットの機能に加えて、オンラインショッピング、店舗での非接触型決済、さらに一部のATMや実店舗での出金にも対応しています。
デジタルウォレット分野に参入する企業にとって、まず重要なのは、どの資産モデルが最適なのかを見極めることです。その上で、デザインの原則に基づいたフィンテックサービスを構築することが、最終的に革新的なサービスを生み出す力となります。どのようなポジションであっても、十分な市場調査を行って、適切なアプローチのもとに将来の成長に向けた基盤を固めることが大切です。
電子ウォレットの資産は、どこにどのように保管される?
どの電子ウォレットでも、決済情報がユーザーのデバイスから流出しないよう高度な暗号化が導入されています。一度限り有効なワンタイムパスワードや、二要素認証などの追加のセキュリティ対策を備えているプラットフォームも多くあります。その上で、資産を保管する方法として、大きく以下の2つのアプローチが存在します。
1. 中央管理システム: 電子ウォレットには、口座と通貨の情報を保存したデータベースを含む、バックエンドの金融システムが必要です。そのようなデータベースは第三者機関によって集約的に所有・運営されており、その機関が電子ウォレット、口座情報、およびすべての取引に関して最終的な権限を持っています。多くの場合、単一または水平展開された複数のデータセンターに、口座と保管されている資金に関する情報が保存されます。
主な事例: 中央管理型の例として挙げられるRevolutやN26などのネオバンクやネオフィンテックは、デバイス上で資金へのアクセスや保管が可能になるウォレットを提供しています。ユーザーがスマートフォンアプリで確認できる口座やウォレットの情報は、多くの場合、リアルの銀行口座と連動しています。注目すべきは、このような中央管理型ネオバンクの多くが、銀行識別番号(BIN)スポンサーモデルやバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)といった革新的な手法を用いて成長を遂げようとしていることです。このテーマについては、ポッドキャスト『Shine』のフィンテック特集回で詳しく取り上げています。
出典:IJEATによるインフォグラフィック
2. 分散型システム: 暗号通貨やブロックチェーン技術でよく知られる仕組み。暗号通貨取引の分散型台帳を、ピアツーピアネットワーク内の複数のコンピューターで検証・維持するシステムによって、資産を保管します。1つの中央データベースに資金を保持する中央管理型とは異なり、分散型システムを用いたウォレットは、資産にアクセスするためのデジタルツールを提供します。外部規制にとらわれないこの技術は、世界中で爆発的に広がっており、Starの専門チームも、企業のニーズに合わせた最新のブロックチェーンアプリを開発できる体制を整えています。
主な事例: 暗号通貨とブロックチェーンのネットワークは、「カストディアル」型と「ノンカストディアル」型に分けられます。カストディアル型のウォレットとは、基本的に資金が第三者によって管理される、ある意味での「中央管理型」のプラットフォームを指します。このタイプに分類されるPayPalやCoinBaseといったプラットフォームでは、暗号通貨の売買や取引はできますが、暗号の世界の観点からは安全性がそれほど高くないとされています。ノンカストディアル型のウォレットでは、第三者ではなくユーザーだけが秘密鍵にアクセスできます。ユーザーが資産を完全にコントロールできるこのモデルは、分散型システムを用いた電子ウォレットを代表する存在とみなされています。ExodusやLedgerのAPIは、ノンカストディアル型ウォレットの好例です。
出典:カストディアル型とノンカストディアル型ウォレットの比較記事
自分の資産にどのようにアクセスする?
中央管理型または分散型システムによって電子ウォレットプラットフォームの基盤が確立されてきたなか、銀行などの金融機関やサードパーティのスタートアップ企業は、ユーザーが安全かつ便利に資産にアクセスできるよう、さまざまな方法を開発してきました。近年見られるデジタル機能としては、次のようなものが挙げられます。
- モバイル対応:スマートフォンなどのモバイルデバイスでアクセスできる、オンライン/オフラインで利用可能なウォレット。ネオバンクや大手の電子ウォレットプラットフォームなどがAPIを用いてシステムを構築しており、ユーザーは口座の追加や管理、資金の移動、支払いなどをすべてアプリ内で行えます。スマートフォンの近距離無線通信(NFC)技術を利用して、店頭(POS)決済に対応するものもあります。
- ウェブ対応:ウェブサイトやパソコンアプリを使って、資産やデータを管理する方法で、大手銀行や従来型のシステムでよく見られます。ユーザーはオンラインバンキングにより口座の管理ができ、デジタルウォレットも利用できます。
- IoT対応:クルマからスマートウォッチまで、さまざまなIoT(Internet of Things)対応機器を介して、資金へのアクセスや直接購入を可能にする機能です。例えば、サムスンの冷蔵庫「Family Hub」では、ユーザーは「Groceries by MasterCard」アプリから食料品を注文できます。Whirlpoolのスマート食器洗い機では、アマゾンのアカウントと同期させると、洗剤の減りを予測して自動的に新しい洗剤を注文できます。
- 暗号通貨対応:スマートフォンアプリなどに格納したユーザー鍵を使って、暗号通貨にアクセスして取引を行います。大半はデジタルツールですが、Ledgerなど一部の暗号通貨ウォレットでは、USBスティック状の物理的なハードウェアを提供しています。
このような新しいデジタル機能やスマートデバイスの普及が、電子ウォレット分野の競争力を高め、業界に創造的破壊をもたらす新しいフィンテック体験の開拓につながっていくでしょう。
電子ウォレットによって、生活はどう便利になるのか?
ユーザーエクスペリエンスの観点から、電子ウォレットの普及が進んでいる要因は以下のようにまとめられます。
- 銀行が不要に:インターネットと電子ウォレットの普及により、口座を開設するために物理的な銀行や金融機関を訪れる必要がなくなりました。今では自宅に居ながらにして、即座に口座の開設や管理ができます。
- 新型コロナの流行:世界中でコロナ対策のロックダウンが行われた結果、多くの人にオンライン決済が浸透しました。Salesforceによる2020年第3四半期と2021年第3四半期のショッピングインデックスでも、その劇的な変化が示されています。世界のオンライン売上は、2020年第3四半期に前年同期比63%増という驚異的な伸びを見せ、2021年第3四半期にはさらに11%増と、多くの消費者にオンラインショッピングが急速に受け入れられました。
- 高い利便性:何よりの魅力は、さまざまな金融口座をひとつのプラットフォームでシームレスに管理できる便利さです。ユーザーは支出の記録やカードの管理、登録されている連絡先への請求や送金が簡単になります。
- 可能性は無限大:ユーザーは必要に応じて、いくつでも口座を作成できます。個人用、ビジネス用、組織用、家族用など、電子ウォレットプラットフォームを使えば、ニーズに合わせていつでも口座を開設/閉鎖できます。
ペイテック企業、スタートアップ企業にとってのビジネスチャンス
電子ウォレットが今後も存在し続けることは間違いありません。これは世界的な現象です。フィンテック企業にとっては、この分野の新たなビジネスチャンスを活かすことが重要となってきます。その際には以下の要素がポイントとなるでしょう。
- 真のグローバルアクセス:消費者から加盟店まで、世界中の人々が電子ウォレットを急速に受け入れ、いつでもどこからでも新しい製品やサービスにアクセスできるようになっています。
- 優れたUX:入念に設計された電子ウォレットアプリの使いやすさや利便性に、消費者は魅力を感じています。対面での口座開設の必要がなくなり、シームレスなP2Pの決済が実現するなど、電子ウォレットによってこれまで複雑だった金融サービスの多くが簡素化されています。ユーザーエクスペリエンス(UX)はあらゆるフィンテックサービスにとって重要なポイントです。
- 高い安全性:電子ウォレットは、金融に対して求められる高い安全性を実現します。セキュリティ技術は進化し、新たなセキュリティサービスの選択肢も広がっています。ポッドキャストのフィンテック特集回でも、AIと顔の生体情報による認証サービスを手がけるOnfido社に着目して、この興味深い分野を掘り下げています。
- カスタマイズ:さまざまなビジネスモデルや収益構造が登場しているため、フィンテック関連企業は賢く選択する必要があります。最近のデジタルウォレットの革新的な事例のひとつが、後払い決済(BNPL)サービスです。
- 多彩なユーザー機能:従来型の金融サービスとは対照的に、今日の電子ウォレットは、デジタル化やモバイルソリューションにより、無限の可能性を秘めています。消費者や加盟店の潜在的なニーズに、デジタルウォレットは画期的なアプリ内サービスで対応できます。
電子ウォレットが秘める大きな可能性を引き出すには、専門的かつ総合的なアプローチが必要です。Starのデジタルファイナンスの専門チームは、世界中のどの地域でも、フィンテック構築からブロックチェーンの活用、デジタル金融、IoTソリューションまで、幅広い製品・サービスでイノベーションを起こせるよう支援します。アイデアを具体的な製品に変えるため、ともに歩んでいきましょう。
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ヘッダー画像出典:dribble.com