スマートフォンなどインターネット接続されたデバイスを通じたショッピングが、ますます一般的になっています。クルマも例外ではありません。自動車メーカーは、ユーザーが車のダッシュボードから直接、ガソリン、駐車料金、食品などの支払いを行えるようにするソリューションを展開しようとしています。
Juniper Researchによると、車内決済による支払い額は、2020年の5億4300万ドルから、2025年までに860億ドルに増加する可能性があります。Ptolemusの評価では、コネクテッドカーでの決済額は2030年までに5000億ドルを超えると予測しています。ただ、その市場規模に達するためには、自動車メーカーは、ファイナンス分野の適切なパートナー企業の選定や提供サービスの絞り込みなど、多くの課題をクリアしなければなりません。通行料やガソリン代の支払いといった現在想定される用途を超える、顧客体験を真に向上させるサービスの創出が期待されます。ユーザーや賛同企業を引きつける直感的な支払いソリューションを生み出し、ブランドの忠誠心を育むパーソナライズされたソリューションをデザインして、独自の価値を確立していく必要があるのです。
車内決済ソリューションの現状をさらに詳しく把握しましょう。
自動車メーカーの取り組みを分析した、Starの無料調査レポートをご請求ください。
車内決済の爆発的な成長を促進する要因とは
車内決済システムの用途として最も一般的なのが、燃料、通行料、駐車料金の支払いです。実際、シェルが英国でモバイル決済サービスを開始したのを受けて、車内決済分野が急成長しました。Juniper Researchによると、2025年の決済額の77%を、ガソリンや充電が占めると予測されています。駐車サービスも興味深い領域です。ドライバーが駐車場所をすばやく見つけられるだけでなく、駐車場会社の運営コストの削減や、交通管理の改善につながり、駐車場を探して無駄に車を走らせる必要がなくなるため、環境汚染の軽減にも貢献します。
他の用途でも成長が見込まれます。車内決済によるコーヒーやファストフード、食料品の購入額は、2020年の1200万ドルから、2025年までに115億ドルに増加すると予想されています。使いやすい仕組みさえあれば、今やユーザーはキャッシュレス決済に違和感を覚えなくなっています。また、新型コロナウイルス感染症への対策としても、Apple Pay、Google Pay、Venmo、QRコード対応サービスなどを使った、スムーズな非接触決済の利用が増えています。
コネクテッドカーの台頭も重要な要素です。Counterpoint Researchによると、2018年から2022年の間に、ネットワーク接続機能を搭載した乗用車が、世界中で1億2500万台以上出荷される予定です。特にドイツ、フランス、英国など主要なヨーロッパ市場では、コネクテッドカーが急速に普及しています。自然言語処理AIの進歩や車載音声アシスタントの登場も、車内決済の爆発的な成長に貢献していくでしょう。
この分野の将来的な発展に向けて最大のポイントとなるのは、戦略的なパートナーシップです。北米市場では、2大決済事業者のVisaとMastercardが自動車会社と積極的に提携して、車内決済システムの設計・展開に取り組んでいます。例えば、2016年には、Mastercard、ゼネラルモーターズ(GM)、IBMが協力して、コネクテッドな商取引ツールをGMのデータ主導オペレーティングシステム「OnStar Go」に導入しました。2019年にはヒュンダイが、米国・欧州でのコネクテッドカー技術のトップ企業であるXevoと提携し、デジタル決済機能を含むテレマティクスプラットフォームを開発しています。
車内決済は、給油、駐車料金、通行料の支払いや、さらには食料品の購入方法を変える最新のイノベーションです。その車載ウォレットや支払いシステムを可能にするのは、オープンバンキングのシステムです。これにより、ユーザーは銀行口座から直接支払いができ、セキュリティリスクも軽減されます。サードパーティの支払いネットワークへの依存度が下がり、取引手数料が合理化され、一連のシームレスな顧客体験を提供できるのです。
Christian Ball, Yapily パートナーシップ部門責任者
課題は、参加企業の確保、安全性&セキュリティ、顧客体験の向上など
Xevoの「コネクテッドカーレポート」によると、ドライバーの71%は、車のインフォテインメントシステムから、テイクアウト用の食べ物やコーヒーを注文できたら便利だと考え、69%は燃料代を払えると便利だと答えています。つまり、ユーザーは車内決済サービスを求めていると言えますが、その前に、自動車メーカーには解決すべき課題がいくつかあります。まず、関連企業から賛同や協力を得る必要があります。コネクテッドカー決済の利点を理解してもらい、サービスを決済システムにシームレスに連携してもらわなければなりません。地域によっては、これは簡単ではない場合があります。
技術的、戦略的、ビジネス的な課題も克服しなければなりません。どんな企業と提携して、どのようなサービスを展開し、いかに収益化していくかを検討していく必要があります。その機能にすすんでお金を払うユーザーが多い地域もあれば、そうはいかないケースもあるでしょう。つまり、市場に応じて収益化戦略を調整していく必要があります。また、安全性やセキュリティ、データのプライバシーも重要です。運転中、シンプルかつ安全に使用できるアプリケーションが求められます。操作するたびに車を停止しなければならないようでは満足に利用してもらえません。マルウェアやデータ漏洩などから個人情報を保護するための仕組みも導入する必要があります。これは一般の自動車メーカーにとっては不慣れな領域であるため、決済セキュリティのパートナー企業から知恵を借りるのが賢明です。
おそらく最大の課題は、真に顧客中心のサービスをいかに創出するかです。TSYSの調査によると、ショッピングと支払いの機能が車に統合された場合、通勤者の75%がより多く買い物をするとしています。ただし、使いやすいインターフェースでなければ、車内決済はうまくいきません。例えば、一度サインインするだけで、さまざまな店舗やサービスの支払いが可能になる「シングルサインオン」機能を導入するなどの工夫が求められます。このようなことが、多くの自動車メーカーにとってデザインとUXの課題となるでしょう。
車内決済の推進に向けて考慮すべき事項
近い将来、車内決済は当たり前の機能になるでしょう。ユーザーは購入する車に決済機能が搭載されていることを期待し、それが購入の決断を左右する可能性もあります。この分野のイノベーターとしての地位を確立するために、自動車メーカーは将来の需要を見越して、今すぐ基礎を築く必要があります。ホンダ、GM、ヒュンダイ、シボレー、ダイムラー、ジャガー、テスラといった多くの自動車メーカーがすでにコネクテッドカーの決済ソリューションを提供しています。新規参入でも、既存サービスの改善や拡張を検討している場合でも、参考にしていただけるベストプラクティスを以下に紹介します。
- 適切なパートナーの見極め
多くのフィンテック企業が車内決済分野への参入を検討しているでしょう。そのような企業は、提供できる自社独自の価値を見定める必要があります。一方、自動車メーカーがフィンテックやデザイン・UXのパートナー企業を選定する場合は、車内決済分野の経験があり、既存のソリューションやワークフローとの連携がスムーズな企業を探すべきです。
- すでにあるものは利用する
自動車メーカーは、すでにあるものを一から作り直すのではなく、既存のテクノロジーを活用することで、市場投入までの時間の短縮や、製品の改善、利用率の向上につなげられます。例えば、Google Pay、Apple Payと連携した、2大プラットフォームのAndroid AutoとCarPlayを、コネクテッドカーの決済サービスとして組み込めます。
- カスタマージャーニーに沿ったサービスの開発
決済ソリューションは、ユーザーのニーズに対応できるようデザインする必要があります。今ある課題を解決することで、利用率や利便性を高められます。例えば、通勤者は何を望んでいるでしょうか? まず浮かぶのは利便性、パーソナライズ、関連性です。ユーザーがガソリンを購入できるようになるのは素晴らしいことですが、それだけでは独自のサービスにはなりません。自動車メーカーは、ユーザーが車のメンテナンスのスケジュール管理ができたり、ディーラー費用の支払いを自動化できたりといった、より創造的な用途を見出す必要があります。例えば、リアルタイムデータに基づいてハードウェアやソフトウェアの不具合を回避できる予測的なメンテナンスシステムを構築できれば、自動車メーカーにもディーラーネットワークにも新たな収益をもたらせるでしょう。
- カスタマーインテリジェンスへの投資
自動車メーカーは、車内決済から生成されたデータを活用することで、ユーザーの行動や好みを理解できます。部門間でその情報を共有すれば、データを基にした製品、サービス、マーケティングの改善につながります。
- パートナーシップと標準化
技術的な課題をすばやく克服するための鍵となるのが、パートナーシップです。メーカー同士でベストプラクティスを積極的に共有し、互いに学び、標準化に向けた取り組みを進める必要があります。ブランドや車種全体で一貫したデジタル決済サービスを提供できれば、利用率が高まり、混乱も減らせます。新しい賛同企業を引きつけることにもつながるでしょう。
車に搭載されているスピードメーターは、誰がどう見てもスピードメーターです。ドライバーは、どの車に乗ろうとも、その機能を即座に理解します。車内決済システムにも同じことが言えます。車内決済エコシステムの主要な要素を標準化することで、自動車メーカーは顧客体験の創出に注力できます。これは、現在・将来の市場シェアとブランドロイヤルティ獲得への鍵となるでしょう。
結論として
車内決済は、自動車メーカー、参加企業、決済代行業者に新たな収益源をもたらし、顧客体験も向上させます。コネクテッドな商取引により、購入がより速く、より便利になって付加価値をもたらします。データやAIテクノロジーを使ったシステムが、関連性の高い商品やサービスを提案し、ニーズを予測して、ユーザー自身でさえ気づいていないような欲求を発掘することで、ユーザーを驚かせ、喜ばせることができるでしょう。