広告業界における生成AI:クリエイティブの世界を変革する

クリエイティブ分野の変革期が幕を開けました。広告業界に生成AIがもたらされたことで、広告代理店は提案する価値やビジネスモデルの再考を迫られています。最近のForbesの記事で、マーケティング担当者の60%が生成AIを投資利益率(ROI)の高い有力な投資だと認識していると報じられるなど、自社で活用する生成AIツールへの投資熱が企業の間で高まっています。

そのなかで、もし広告代理店が独自のツールを開発できたら、ビジネスモデルにどのような影響を与えるでしょうか?

広告業界における生成AI

このウェビナーでは、Starのアドテック部門グローバル責任者であるScott Tiemanと、Publicis ProのCEOであるJon Lonsdale氏、StackAdaptのCEO・共同創設者であるVitaly Pecherskiy氏がライブで対談。生成AIが急激な変化をもたらす可能性、ハイパーパーソナライゼーションの落とし穴、AIツールを商業化する方法などが話題にのぼりました。また、Lonsdale氏が、Publicis Proが最近発表した生成AIツール「B2B Lab」をプロダクト化するまでの道のりを紹介しました。

AIを長期戦略に組み込む方法とは?ぜひ録画をご覧ください。

生成AIがビジネスモデルに与える影響

AIは広告に新しい価値をもたらします。それに加え、生成AIが従来のビジネスモデル、とくに広告代理店の運営、クライアントへの請求、価値の提供などの方法を変革しようとしています。

Lonsdale氏は、時間ベースの料金体系から、成果やアウトプットをベースとした体系へのシフトについて言及しました。「サービス環境の提供という点で、私たちは顧客と同じスピードで動く必要があります。どこもまだ検討段階ですが、モデルを変える大きな可能性を秘めているのは確かです。適切な料金モデルの設定は簡単ではありませんが、いずれは時間モデルから、成果とアウトプットに基づいたモデルに移行していくでしょう」。同氏はまた、テクノロジーが進歩する時代において、人間の創造性が最も価値のある資産となり、それを守っていくことが重要だと強調しました。

Scottは、アドテック分野のすべてのプレーヤーが、AIを活用した統合的なソリューションを開発しようとしていると語りました。「人々は、データ、創造性、テクノロジーを組み合わせた包括的なソリューションを求めています。そのため広告代理店、テック企業、ブランドは、AIを活用した機能を構築し、提供するサービスを差別化して、新たな収益源を生み出そうとしています。そのうち代理店の請求書に『AI計算代』という項目が追加されるかもしれませんね」。Scottによるクリエイティブエコノミーにおける生成AIについての記事も、ぜひお読みください。

Pecherskiy氏は、AIを戦略的に統合する必要があると話しました。「AIは大きな戦略の一部として考えるべきでしょう。クリエイティブプロセスの一部としてコンテンツ制作にAIを使うだけでは、提案する価値は高まりません。マーケティング全体を変革する戦略を立て、AIをピースの1つとした統合的なサービスを提供していくことが重要です」

生成AIによるハイパーパーソナライゼーション

生成AIを使った、広告における1対1のハイパーパーソナライゼーションの実現の可能性についても議論されました。Scottは、パーソナライズされたインタラクションの需要についてこう話します。「人々は24時間365日、あらゆるチャネルで、パーソナライズされたインタラクションを求めています。その中で、AIの進歩により、合成ペルソナの開発が進んでいます。生成AIが大規模な実データから、より深いインサイトを引き出せるようになっています。このような方法でクリエイティブやメッセージを検証することで、キャンペーンの効果を高められるでしょう」

一方、Pecherskiy氏は、拡張性と品質保証についての懸念を指摘しました。「パーソナライゼーションから十分なリターンを得るのは簡単ではありません。何百万ものパーソナライズされた広告を作るのは、複雑でコストがかかります。例えば、1,000万件の広告の品質を保証するのに、いったいどれくらいのコストがかかるか想像してみてください。 パーソナライゼーションは、スケーラビリティテストのように広告のバリエーションの実験には役立つと思いますが、マーケティング戦略としては、より広い文脈の中でAIを考えていく必要があるでしょう」

消費者ジャーニーへのAIの導入

広告の進歩の原動力として、消費者の期待が果たす役割も見逃せません。Lonsdale氏は、消費者によるAIの利用はまだ始まったばかりであるものの、B2Bでは大きな変化が起きようとしていると指摘します。「40~50歳代でAIを毎日使用している人はわずか3%です。しかし、B2B企業でのカスタマーサービスや顧客エクスペリエンスにおいては、AIが大きな変化をもたらそうとしています」

消費者はブランドとの間の、自然で質の高いインタラクションを求めていると、Scottは付け加えます。「AIにはこうしたインタラクションを一変させる可能性がありますが、それを実現するためには透明性とコントロールが不可欠です。AIが提案を行う仕組みについて、消費者に理解してもらい、信頼してもらう必要があります」

生成AIの商業化戦略

生成AIを商業化するには、テクノロジーを深く理解して、戦略的に導入していく必要があります。ただ現在、多くの広告代理店で、AIは生産性向上ツールとしてのみ扱われ、新たな収益源としては捉えられていません。Scottはこう語ります。「代理店はまだそのことを深く認識していないようです。調査結果によると、AIの商業化の可能性を完全に理解している代理店は39%に過ぎません。実際には、商業化はさまざまな潜在力を秘めていると思います」

そこで広告代理店が独自のAIツールを構築できれば、真に価値のあるモデルを企業に提供できるでしょう。Scottはこう説明します。「代理店がAIを活用した付加価値のあるサービスを開発できれば、まったく新しい収益源が生まれます。代理店が統合的なモデルをよりコントロールできるようになり、パフォーマンスベースのモデルも実現できます。つまり、費やされた時間だけでなく、創出された価値に着目したビジネスモデルが可能になるのです」

Lonsdale氏は、広告代理店がAIの商業化を目指すなら、まず自社内で使ってみることが大事だと言います。「チームがAIを使い始め、それについて話し始めれば、イノベーションや商品化モデルは後からついてきます。まずは実際に使ってみて、AIを理解することです。そうすれば、自信を持ってクライアントと話ができます。それがクライアントとの共創モデルを立ち上げ、そのモデルを訓練するための安全な環境を用意し、行動規範を定め、日常業務にAIを統合することにつながっていくでしょう」

最後にValeria Balaroが、まとめとして戦略的アプローチの必要性を再確認しました。Starは、大胆なビジョンを描き、そこから体系的に逆算して、明確で実行可能なステップを明らかにする「エンドゲーム思考」を重視しています。「AIを導入する前に、エンドゲーム、つまり長期的なビジョンを考える必要があります。過大評価に惑わされることなく、目の前の現実の課題を解決し、AIをビジネスモデルに有意義に統合していくことが大切になるでしょう」

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