カウンターポイント社の「モノのインターネット(Internet of Things)動向調査」2020年11月版では、コネクテッドカーの急速な成長を裏付ける、力強いデータが示されています。
- 新型コロナが大流行した2020年に出荷された自動車の半数は、コネクテッドカーだった。
- 世界のコネクテッドカー市場は今後5年間で2倍に拡大し、2020〜2025年にネットワーク接続機能を搭載した乗用車が2億7千万台以上出荷される見込みである。
- 2025年までに、コネクテッドカーの5台に1台が5Gに対応すると予想される。
このようなコネクテッドカーの急速な広がりを支えているのは、世界的な接続環境の向上と、有利な規制です。例えば、欧州では2018年4月以降に販売されるすべての新車に、eCall(車両緊急通報システム)の装備が義務づけられ、それ以来、コネクテッドカーの出荷台数が急増しています。一方、世界最大級の市場である中国と米国では、コネクテッドカーのメリットを重視する消費者の嗜好が原動力となっています。2020年第2四半期には、世界のコネクテッドカーの出荷台数の3分の2近くを米国・中国が占めています。
接続性の向上により、従来の自動車の役割を拡張するようなイノベーションの可能性が広がっています。チャンスを捉えるには、まず人間のニーズを把握し、自動車やコネクテッドアプリを通じてそのニーズにどう応えられるかを考える必要があります。実際にそのようなアプローチから、ボルボとゼネラルモーターズがアマゾンと共同開発した車への荷物配送サービスや、運転中にセルフィーを撮ってくれる、Nioの電気自動車向けHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)内に搭載されたヒューマノイド「Nomi」など、さまざまな魅力的なサービスが生まれています。
こうした開発を行う際には、私たちが日常的に使っているスマートフォンと、コネクテッドカーのエコシステム内でアプリが果たす役割を考えていかなければなりません。そのためStarは、自動車メーカーやモビリティ分野の革新的企業と協働して、コネクテッドアプリやプラットフォームの開発に取り組んでいます。
本記事では、私たちStarが世界トップクラスの自動車メーカー、一次サプライヤー、スタートアップ企業と連携してコネクテッドカーアプリを開発する中で学んだ、重要な知見や洞察、教訓の一部をご紹介します。
ビジネスの成果につながる顧客インサイト
コネクテッドアプリは、ユーザーにさまざまなメリットをもたらします。なかでも重要なのは、ユーザーとの関係性を深め、より没入感のあるカーライフを実現することです。 車載アプリは、ユーザーと車の間だけでなく、自動車メーカーとユーザーの間においても強力な架け橋となります。おそらく最大の利点は、車載コンパニオンアプリが、運転頻度や潜在的なニーズなど、ユーザーの行動・習慣についての信頼性の高い巨大な情報源となることでしょう。これをもとに自動車メーカーはアプリを活用して、新機能やニュースを提供したり、サービス改善に向けた調査に参加してもらったりなど、ユーザーとのコミュニケーションを図れます。
ブランドや内装に合わせたアプリのデザイン
10年以上にわたり、自動車業界のデザインプロジェクトに取り組んできたStarは、美しいUIや心地よさといった、アプリの外観や印象が重要であることをよく理解しています。しかし、コンパニオンアプリは、それと同時に、車の役割を違和感なく拡張させるものである必要があります。つまり、運転中にも、機能やアプリの使用時にも、シームレスな体験を提供する役割を担っているのです。また、コネクテッドカーアプリは、ブランドのアイデンティティや、会社の使命・価値観の伝達に役立ち、ブランド戦略を変更する際にも活用できます。このようにアプリの最適な「ルック&フィール」のバランスを追求することは、重要で価値のある取り組みなのです。
近年、消費者の購買習慣が変化し、自動車の購入プロセスもデジタル世界から始まるようになっています。自動車メーカーはコネクテッドアプリを活用して、顧客がディーラーを訪れる前からブランドへの親近感を醸成するといったアプローチにより、この変化に対応できるでしょう。バーチャル試乗、ディーラーのオンラインツアー、デジタルで完結する購入プロセスなど、自動車の新しい購入体験を生み出す可能性は無限にあります。
アーキテクチャの制約内での開発
他のソフトウェア製品と同じく、コネクテッドカーアプリでも、早い段階で適切なアーキテクチャを選択することが重要です。本質的にIoTシステムである車載コンパニオンアプリは、物理的な車とのインタラクションにおいて、さまざまな課題に直面します。スマートフォンとコネクテッドカーの間にサーバーを設けるという標準的なアプローチでは、双方の接続性の低下や通信の遅延といった問題が発生しがちです。これらの問題に、技術・UXの両面から対処して、ユーザーにスムーズで可能な限りリアルタイムな体験を提供していく必要があります。また、緊急事態や警告が発出された場合の対応も課題です。今起こっていることをユーザーに明確に通知し、その状況下で何をすべきかを的確に伝える必要があります。
サードパーティのサービスの活用
現在ほど、モビリティを革新するのに適した時機はありません。モビリティのバリューチェーンの至る所で、さまざまな企業が新しいサービスを提供しています。そのためコンパニオンアプリの開発過程において、どのような企業が存在するのかを把握し、自社のサービスに適したサービスを発掘していくことが重要になります。地図やナビゲーションなどの主要コンポーネントから、駐車、充電、コンテンツといった付加的サービス、さらにはインフラとの連携や新しいモビリティの選択肢も見つかるかもしれません。取り入れられそうなサービスを特定したら、商業面・技術面から徹底的に精査し、適切な機能を適切な価格で提供できるかどうかを判断しましょう。
セキュリティの確保
コネクテッドアプリは車のキーの代わりになるだけでなく、毎日の移動に関する機密データの源にもなります。モバイル/Webアプリのセキュリティ問題について調査しているOWASPコミュニティは、ソフトウェア開発のセキュリティに関する明確なガイドラインを策定しています。OWASPのガイドラインは以下のような領域をカバーしています。
- アプリへのアクセス
- 機密性の高いデータの保存と操作
- 転送中のデータ保護
- 総当たり攻撃からの保護
- ハッキング
アプリの開発時には、「脅威モデリング」を実践することもお勧めします。これは、関係者が知恵を寄せ合って、考えうるすべてのネガティブケースを洗い出す取り組みです。これによりアーキテクチャ内で問題が発生するリスクを軽減でき、セキュリティ機能が適切に実装されていること、OWASPガイドラインに従っていることを確認できます。
最後に、現在の自動車業界で見られる最も興味深い動きとして、車両製造をベースにした従来のサイクルから、ソフトウェア企業が得意とする継続的デリバリーへと開発方法が移行しつつあることが挙げられます。これにより企業はあらゆる段階において、アプリを更新することで、常に改善・進化していけるようになります。アプリ開発に着手したばかりのお客様とも、すでに市場に製品を投入しているお客様とも、Starはともにアイデアを話し合い、ともにモビリティの未来を創造していく方法を探っていきたいと考えています。
Image sources: newsroom.porsche.com, BMW, TopSpeed