Siri、Alexa、Googleなどの音声アシスタントは私たちの日常生活に浸透し、今やそれを当然だと思うほどになっています。ほんの数年で、Siriにタイマーの設定を頼んだり、Alexaに照明を暗くしてもらったりすることに、多くの人がすっかり慣れ親しんでいます。
医療分野向けにも、音声アシスタント技術の活用が長く模索されてきました。音声アシスタントは患者さんのアドヒアランス(治療への積極的な関与)向上や、高齢者とのコミュニケーションなど、さまざまなメリットを提供し、人とヘルスケアとの関わりを根底から変えようとしています。
HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)の遵守や、自然な話し言葉の処理など、いくつかの課題は残っているものの、デジタル音声アシスタントは着実にヘルスケアを変革しています。ここでは、デジタル音声アシスタントを使った4つの主な活用事例をご紹介します。
音声テクノロジーが、ヘルスケア製品のデザインに欠かせない理由
まず、誰にとっても大きなメリットがあるのはハンズフリーです。移動が不自由な人から、車内でリマインダーを設定しようとする人まで、テキスト以外のコミュニケーション方法があることで、柔軟な利用が可能になります。
デジタル音声アシスタントは、マルチモーダルアプローチの一翼を担っています。例えば、ユーザーは自宅にいるときは音声で、公共の場ではテキストでやり取りするなど、状況に応じて方法を切り替えられます。これは、音声が抱えるコンプライアンスとプライバシーの課題に関連してきます。
そのコンプライアンスとプライバシーの課題が、医療分野でデジタル音声アシスタントがまだ十分に普及していない主な理由です。プライバシーがそれほど問題にならない他の業界では、デジタル音声アプリケーションは、アーリーアダプター層による利用を超えて、すでに普及の段階に入っています。
そのような状況の中、Alexaが2019年にHIPAA準拠を果たしたことで、規制に適合しつつ、多くの投資、利用、試みが促進される基盤が整い始めました。このような事例が続けば、音声テクノロジーはその潜在力をさらに発揮できるようになるでしょう。
音声アシスタントを活用して、ステークホルダーに恩恵をもたらそうと考えるデジタルヘルス企業には、以下に紹介する4つの主要な活用例が参考になるでしょう。


活用例 1:在宅医療に最適
米国だけでも、毎日約1万人が65歳を迎えています。現在の医療システムには、これらの人々の緊急・非緊急のケアニーズに対応する能力がありません。そこに、音声アシスタントやデジタルヘルスを活用することで、高齢者は自立した状態を保て、自宅で長く過ごせるようになるでしょう。
音声アシスタントは、アポイントメントの管理のほか、特にパンデミック下で望まれた、孤独感を和らげる交流やコミュニケーションを提供できます。自然言語処理やAIにより、会話の精度やコンパニオンアプリの性能は日々急速に向上しています。
高齢者向けのサービスは特に進んでおり、遠隔からのトリアージや診断、家族や介護者が簡単に状況を確認できるツール、患者さんのアドヒアランスを向上させるサービスなどが提供されています。効果的なケアに重要な役割を果たすこれらの機能には、どれも音声による操作や管理を導入できます。
プラットフォームとデバイスの統合にバーチャルアシスタントを活用した好例として、Catalia Healthのツール群が挙げられます。同社のMabu Care Insightsプラットフォームを中心に構築されたツールは、直感的なアプリ、SMSメッセージ、チャットボット、Siri/Alexaとの連携などにAIツールを組み入れています。これにより、患者さんはサービスを使いやすくなり、医療提供者はあらゆる側面でエンゲージメントを確保できます。
活用例 2:服薬アドヒアランスの向上
服薬のアドヒアランス不良は、医療の大きな問題となっています。米国だけで毎年、12万5千人の予防可能な死亡、全入院の25%、治療の失敗の50%に、服薬アドヒアランスの不良が関連しています。
65歳以上の人は平均して、1日4つ以上の処方薬を服用しています。薬ごとに異なる服用時刻が指定され、服用を忘れた際の対応が別途定められている場合もあり、すべてを正確に覚えるのは簡単ではありません。年齢を重ねると、誰もがもの忘れをしやすくなることを考えると(神経減少やアルツハイマー病、認知症のリスクを加味すればなおさら)、服薬アドヒアランスの不良が起こるのは無理もないと思われます。
このような現状に対処するのが、Pilloのようなデジタル音声アシスタントです。Pilloは、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせた統合型のアシスタント&投薬管理ツールで、独特の個性がコミュニケーションを促し、在宅医療や服薬アドヒアランスの向上に貢献します。部屋の中にいるユーザーを積極的に探し出して交流するPilloは、まさにスマートな医薬アシスタントだと言えます。

活用例 3:医療提供者のワークフローを最適化する
派手な利用方法ではないものの、大きな影響力があるのが、医療従事者のワークフローへの音声テクノロジーの導入です。実際、これはテクノロジーの非常に優れた活用方法だと、私たちは考えています。
患者さんにとっての脅威が服薬アドヒアランスの不良だとすれば、医療従事者にとっての脅威は、負担の重さや燃え尽き症候群へのリスクです。この課題を解決するには、業務の効率を高め、作業負担を軽減する方法を見つけなければなりません。
この課題に革新的な方法で対処するのが、NuanceやSukiといったツールです。これらは、患者さんと医療提供者が交わす自然な会話を聞いて、医学用語に翻訳したり、メモに書き起こしたりでき、内容は電子健康記録(HER)にセキュアに連携されて、医療従事者の時間を大幅に節約します。
患者さんが症状を説明し、医療従事者が手動で文字起こしや入力を行う従来の方法とは異なり、すべてが自動的に処理され、精度も大幅に向上します。医療従事者は患者さんに接する時間が増え、メモを取るよりも診察やコミュニケーションに集中できます。保険者は正確な書類を受け取れることで、請求処理をスピードアップできます。
デジタルフロントドア(ユーザーを迎えるデジタルの玄関口)の施策にも貢献します。音声アシスタントを使用することで、医療従事者は効率的にアポイントメントを管理して、初めての患者さんをスムーズに案内できます。これにより、事務スタッフの労力を最小化でき、患者さんごとに格差が生まれるリスクも軽減されます。
活用例 4:病室での使用
導入初期には、エンターテインメントの操作に音声アシスタントが使われる例が見られました。TVのチャンネル変更や、看護師の助けを借りないハンズフリー通話などに活用されていました。
現在では、特にAlexaがHIPAA準拠を果たして以来、より幅広い使用例が見られるようになっています。例えば、患者さんは、治療に関する動画を再生するようAlexaにリクエストできます。
もちろん、温度調節やベッドの上げ下げ、支援の要請といった基本的な事項もAlexaで行えます。これにセンサーテクノロジーや遠隔患者モニタリングを組み合わせることで、患者さんや医療従事者の負担が軽減され、ケアの質が高まります。
Orbitaプラットフォームは、音声テクノロジーが医療を変革している事例のひとつです。デジタルフロントドア、BedSideアシスタント、教育・支援プラットフォームのOrbitaCONNECTなどにより、あらゆる接点でエンゲージメントを高め、音声、テキスト、動画、その他のHIPAA準拠のインタラクションを含めたマルチモーダル対応により、健康の成果を向上させ、医療従事者を支援しています。


音声を活用した、ヘルスケア分野のデザインソリューション
ヘルスケア分野で、バーチャルアシスタントの時代が幕を開けようとしています。HIPAA規制などの課題があるにもかかわらず、エコシステムや製品で、障壁を打ち破った素晴らしい事例が登場しています。
Alexa、Suki、Orbita、Pilloといった製品では、課題にうまく対処し、人々が楽しみながら使える、直感的でユーザーフレンドリーなインターフェイスが生まれています。
今、市場やユーザー、規制当局も含め、ヘルスケアに音声アシスタントを導入する環境がこれまで以上に整い始めています。Starはこの素晴らしい新技術を活用して、デジタルヘルスのイノベーション創出を支援しています。
Starは、セキュリティやコンプライアンスを考慮した、エンドツーエンドの製品やソリューションを共創し、ステークホルダーに価値をもたらしています。ヘルスケア分野ではありませんが、2020年にレッド・ドット賞を受賞したNIOとのコラボレーションはその好例です。ここから生まれた世界初の車内コンパニオン「Nomi」は、ドライバーや乗客とAIとの間に信頼を築き、感情を持つ車載AIのお手本となるソリューションとして評価されました。

デジタルヘルスの目標達成に向けて、私たちがお手伝いします。今すぐStarのデジタルヘルスケア専門チームとつながり、ディスカッションを始めましょう。
画像出典 ゲッティイメージズ

David Box
Connect to LinkedInDavidはStarヘルステック部門のマネージングディレクターとして、お客様と協力し、デジタルヘルスケア製品のアイデア出しや開発を担い、構想からローンチ、それ以降の展開までを支援しています。Starに加わる前は、ヘルスケア業界のクライアントと10年間にわたって協働し、患者さんの治療結果やエンゲージメントを高め、ヘルスケア体験を向上させる、市場をリードする製品やサービスを構築してきました。