医療分野のバーチャルアシスタントと音声テクノロジー:Starヘルステックチームが解説

David Box

by David Box

ヘルスケア分野のデジタル音声アシスタント R1hbapm

今やデジタル音声アシスタントは、日常生活に欠かせない存在になっています。米国、英国、ドイツの市場を対象にした調査では、57%の人が音声アシスタントを利用しており、30%が日常的に頼りにしていると回答しています。概して音声テクノロジーは、携帯電話など他の多くの先端技術よりも速いスピードで普及が進んでいます。

音声テクノロジーにより、人間はより自然な方法で機械と対話し、簡単に情報にアクセスして、複雑なシステムを使いこなせるようになります。つまり、あらゆる年代の人々にメリットをもたらす技術だと言えます。

高齢者向けの会話型インターフェイスや、エイジング・イン・プレイス(高齢者が住み慣れた場所で暮らすこと)などの実現が期待される医療・ヘルスケア業界において、音声アシスタントの重要性は計り知れません。人手不足、医療費の高騰、そして急速に進む高齢化は、パンデミックからまだ回復しきれていない世界の医療システムにとって、大きな課題となっています。

若い世代と高齢者との間には依然としてデジタル格差が存在するものの、調査によると、高齢者は次第にテクノロジーに精通するようになってきています。過去2年間だけで、65歳以上の人のスマートフォン所有率は53%から61%に上昇しました。

マルチモーダルな医療用デジタルアシスタントの機は熟しています。テクノロジーを使ったサービスの利用に前向きな高齢者の増加、医療イノベーションへのニーズの高まり、コンピューターの演算能力の向上を背景に、AIテクノロジーの成長、必要性、受容を促す変曲点が目前に迫っています。

企業にとって、音声テクノロジーや医療用デジタルアシスタントの導入は、7.6兆ドルの高齢者市場において、メドテックやデジタルヘルスケア分野での足場を固めるチャンスになります。その機会を生かすには、ユーザビリティとデザイン、自然言語処理、そして家庭内健康テクノロジーシステムへの包括的な統合に着目していく必要があります。

Voice Assistants for Healthcare (3)

ユーザビリティとは、単なる魅力的なUIのことではない

製品戦略の根幹をなすユーザビリティ(使いやすさ)を、あらゆるタッチポイントで考慮することが重要です。患者さんにとって使いにくかったり、ワークフローが複雑であったり、設定に手間がかかったりするようなテクノロジーは、受け入れられないでしょう。

ただ、多くのデジタル製品メーカーは、このようなユーザビリティの影響を過小評価しています。65歳以上の4人の1人が「社会的に孤立」しており、新しいテクノロジーの利用を手助けしてくれる人がいない可能性があるという事実が見落とされているのです。この課題に対応するには、製品のアイデアを考える際に、参加型デザインのアプローチを取り入れる必要があります。つまり、ユーザーが製品を使い始める際に誰がサポートするのか、特定のニーズに合わせて合理的でシンプルな利用体験をどうデザインするのかを考えることが重要です。その結果、例えば、大きなフォント、音声での説明、音声操作などの必要性が浮かび上がってくるでしょう

ユーザー教育や製品説明を重視すると同時に、SMSメッセージ、ウェブブラウザ、SiriやAlexaなど、モバイル機器にすでに組み込まれている機能を使った会話型インターフェイスを考えていく必要があります。それにより、より親しみやすいユーザー体験を実現でき、利用率やエンゲージメントの向上につながっていくでしょう。

自然言語処理とAI

企業が音声アシスタントを開発する際には、用いる予定のAIや自然言語処理・解釈モデルを精査する必要がまずあります。使い勝手の良さがアピールされている音声アシスタントですが、まだ完全にシームレスになっているとは言えません。

その背景には、多くの音声アシスタントが、あらかじめ用意された対話をもとに構築されていることがあります。そのため会話能力に限界があるのです。一方、Front Porch Groupの調査では、高齢者による音声アシスタントの利用率自体は高いことが示されています。誤ったボタンを押したり、機器が壊れたりすることを心配しないで済むからです。つまるところ、問題は会話の内容そのものです。

それは、従来型の自然言語処理(NLP)システム、すなわちコンピューターを訓練して人間の言葉を理解させるAIモデルが、シンプルかつ直接的な質問にもとづいて訓練されていることに原因があります。これは長くコンピューターに親しみ、機械への問いかけに慣れている若い人たちにとっては問題ではありません。

ただ、高齢者向けの会話型インターフェイスをデザインする際には、話すペースを遅くしたり、高齢者が日常会話で使い慣れている言葉に対応したりといったアプローチが必要になります。その結果、高齢者向けの対話文は、従来の音声アシスタントの訓練に用いられるものよりも、複雑で長い文章になるでしょう。

企業にとってこの状況は、ギャップを埋め、利用率やエンゲージメントを向上させるチャンスです。高齢者自身が話し方を変えるのは難しいため、AIの側が高齢者を理解していく必要があります。具体的には、長い質問を理解し、その要素を解析して、答えを導き出せる、より強力な自然言語処理能力を持つAIが求められます。症状や健康状態に関する質問では、特にそれが重要になってきます。

年齢を問わず、自分が体験している症状を適切な言葉で説明するのは簡単ではありません。そこでAIには、総合的な理解力と、病状などに特化した知識ベースが必要になります。そうして初めて、機能を実際の音声アシスタントに実装したり、AlexaやSiriなどに統合したりできるのです。

Elliq

ポイントは、統合、モダリティ、相互運用性

高齢化社会におけるバーチャルアシスタント技術では、モダリティと統合がポイントになります。特に鍵を握るのはスマートスピーカーです。2025年までに、米国の75%の世帯がスマートスピーカーを所有するようになり、なかでも65歳以上の高齢者が最も急速に成長する市場のひとつとなると予想されています。

スマートスピーカーは、テクノロジーによる支援と話し相手という2つの役割を担うようになっています。「幸せに歳を重ねるための相棒」である「ElliQ」のような画期的なプロダクトに、その進化を見ることができます。ElliQは、高齢者が前向きに生活を続けられるよう支援する、音声操作のケアコンパニオンです。

ElliQはAlexaと一見、似ているものの、ユーザーからの指示や質問を必要としない点が異なります。ElliQは自ら進んで会話を始め、過去のやりとりを記憶し、共感や親近感を築くことを目指します。ユーザーはElliQと一緒にゲームをし、食事や運動、服薬のタイミングを教えてもらえます。コンピュータービジョンと運動センサーにより、ElliQは動きに反応し、人の居場所を把握して、ユーザーがいる方へ旋回できるため、まるで生きているかのようです。

このように、単なる音声を超えたメリットを提供することが、高齢者向けソリューションの成功には欠かせません。他のデバイスに比べて、ElliQとの対話はより協調的に感じられます。ユーザーの年齢に関係なく、音声アシスタントに物理的な要素を加えることは、長く利用し続けてもらうための大きなメリットとなる可能性があります。私たちStarも、Nio社と共同で世界初の車内コンパニオン「Nomi」を開発した際に、これを実感しました。Nomiがモビリティ体験を向上させたように、このようなソリューションはヘルスケア分野において大きな可能性を秘めています。

スマートスピーカーの枠を超えた発想が必要かどうかは製品によるものの、今後、家庭内にもたらされる様々なデジタル医療技術(メドテック)やヘルスケア技術との包括的な統合が、製品戦略として不可欠になることは間違いないでしょう。デジタル音声アシスタントは、マルチモーダル戦略の一環として効果的ですが、その際にサービスとそれが生成するデータが分断されていてはなりません。つまり、最初の段階から相互運用性を考慮しておく必要があります。

プラットフォームやデバイスを超えた統合を実現している好例が、クロスプラットフォーム型のバーチャルアシスタントを実装しているCatalia Healthのツールです。同社は「Mabu Care Insights」プラットフォームを中心に、直感的なアプリ、SMSメッセージ、チャットボット、ウェアラブルデバイス、Siri/Alexaに、AIツールを組み合わせ、患者さんだけでなく、医療提供者にとっても使いやすいソリューションを生み出しました。医療システム間のデータフローを確保することで、様々な関係者が積極的に使いたいと思うツールになっています。

Frame 6

音声テクノロジーを活用したエイジング・イン・プレイス戦略

それが登場した直後から、医療・ヘルスケア向けのバーチャルアシスタントは、コミュニケーション手段の可能性を解き放ち、エンゲージメントの向上、社会的孤立の解消、健康状態の改善に大きな影響を与えていくだろうと、私たちは確信していました。

そのため、バーチャルアシスタントをデジタルヘルスケア製品開発戦略の基礎に据えるべきだと私たちは考えます。人間と機械の自然なやり取りを促す能力がますます高まっている音声テクノロジーは、患者さんだけでなく、医療機関、医療従事者、ライフサイエンス分野の専門家にとってもメリットをもたらします。そしてユーザビリティ、AIと自然言語処理、相互運用性は、誰がユーザーであっても優先的に検討すべき課題です。

また、高齢化市場を考える際には、現在の高齢者だけでなく、55歳以上の人々に訪れる変化にも目を向ける必要があります。その人々にコネクテッド機器との対話やサービスの利用に慣れてもらい、前向きなライフスタイルを実現できるよう支援していくことが重要です。人が年を重ねる旅路に寄り添い、快適さや癒しをもたらし、大きな価値を提供するテクノロジーを開発すること。これこそが、誰もが実現するに値する、より健康で、安全で、自立した生活への鍵なのです。

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David Box
Starヘルステック部門マネージングディレクター

DavidはStarヘルステック部門のマネージングディレクターとして、お客様と協力し、デジタルヘルスケア製品のアイデア出しや開発を担い、構想からローンチ、それ以降の展開までを支援しています。Starに加わる前は、ヘルスケア業界のクライアントと10年間にわたって協働し、患者さんの治療結果やエンゲージメントを高め、ヘルスケア体験を向上させる、市場をリードする製品やサービスを構築してきました。

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