車に対する消費者の期待は、これまでになく高まっています。今や車は、電子機器やモバイルオフィス、エンターテインメントハブといった存在へと近づいています。特に若い世代は、馬力やシートの革張り加工よりも、車内のインターフェイスに関心を持っています。現代社会に不可欠なモバイルアプリに対応し、自分たちの生活を向上させてくれる車を求めているのです。自動車のハードウェアやソフトウェアに実装されるヒューマンマシンインターフェイス(HMI)は、ドライバー・乗車者と、車両や外の世界との連携を支援するものです。HMIの例としては、ナビシステムのタッチスクリーン、音声操作に対応した車載インフォテインメントシステム、ハンドル、ボタン、ディスプレイ、運転支援機能などが挙げられます。HMIによって、人々は車載テクノロジーを理解し、車両を安全に操作できるようになります。また、自動運転が普及していく中で、運転のスムーズなコントロールにも欠かせない存在になるでしょう。つまり、自動車メーカーが適切なHMIを開発できなければ、自律運転車や電気自動車の大規模な普及は実現できないとも言えます。
ここでは、自動車メーカーが直面しているHMIデザインの課題を取り上げ、今日の顧客を喜ばせながら、コネクテッドカーや電気自動車、自律走行車が登場してくる未来に対応するために、どのような解決方法があるかを見ていきます。
課題:ドライバーは自動車のHMIデザインに、実際に何を期待しているのか?
ユーザーからの期待が高まる中、自動車メーカーはモバイル機器と競い合えるレベルのHMIを開発する必要があります。優れたHMIはユーザー中心のアプローチから生まれます。つまり、運転手や乗車者を深く理解しない限り、効果的なHMIを生み出すことはできません。自動車メーカーのイノベーション部門や研究開発部門が行う調査は、生産開始に向けての技術確認を目的とした基本的な調査が主です。HMIのデザインに関しては、マーケティングチームから入手した時代に合わない市場調査やセグメンテーションに頼り、ユーザーを大規模に理解するためのアプローチは取られていません。つまり、ユーザーのリアルな期待や優先順位が把握されていない場合が多いのです。実際には、お気に入りの音楽のストリーミング、生産性向上アプリや音声アシスタントとのスムーズな連携、長時間のドライブ時に子供たちを引きつけられるコンテンツなどに強い関心を持つユーザーもいれば、人間と機械のインタラクションに大げさな機能や自動化は望まず、できるだけシンプルで安全なものにして欲しいと考える人もいます。
今後の方向性:ユーザーと直接的につながる
多様なカスタマージャーニーやニーズを理解するために、自動車メーカーはユーザーと直接的につながり、車載ソフトウェアを迅速かつ継続的に改良していく必要があります。購入者を理解するためには、定性的な顧客調査を実施すべきです。ドライバーに実際の機能をテストしてもらい、得られたデータやフィードバックに基づいて継続的に更新していくシステムを確立していく必要もあります。ソフトウェア会社のように消費者第一のアプローチでテストに取り組まなければなりません。共同所有の広がりや最新の音声テクノロジーなど、HMIに影響を与えそうな世の中のトレンドも把握する必要があります。
課題:数多くの機能に対応しつつ、シンプルで安全なHMIをデザインするには?
HMIの開発を難しくしているのは、人間と機械のインタラクションに影響を与える変数が多いことです。これに対し、自動車メーカーは人工知能(AI)を活用して、目的地や時刻、運転者、車の状態(走行、アイドリング、駐車)といった多様な情報に適応できるインターフェイスを構築しようとしています。センサーを使って、体温に応じて車内環境を自動で調節したり、運転者の注意力レベルに合わせた対応をしたりなど、快適性向上への取り組みが進められています。今後、車の接続性がさらに高まり、アプリや機能の数が増えるにつれて、自動車メーカーは運転者の注意散漫を防ぎ、集中力を維持できるような方法を検討していく必要があるでしょう。
今後の方向性:マルチモーダルのHMIをデザインし、柔軟なプラットフォームで展開する
マルチモーダルのHMIとは、人と車載システムとのやり取りに、音声、タッチ、ジェスチャー、触覚など、複数のインタラクション形式を用いることを指します。直感的で柔軟なマルチモーダルHMIをデザインすることで、安全性を確保しながら、ユーザーの好みの方法に対応できます。また半自動で走行する際の、手動操作と自動運転のスムーズな切り替えにも、マルチモーダルHMIが重要になります。自動走行の利点を活かしつつ、必要に応じてドライバーが関与して車を制御できるようなHMIをデザインする必要があります。
課題:新しいHMIのリリースや更新を素早く行うには?
比較的長い時間をかけて生産を行う自動車メーカーにとって、スピーディーな市場投入は大きなチャレンジです。多くの企業には、HMIデザインの課題に迅速かつ効果的に取り組むための余裕や専門知識がありません。一方で、ユーザーはソフトウェアが頻繁かつスムーズに更新され、製品やサービスが継続的に向上していくことを期待しています。自動車業界はこの点で後塵を拝していると言わざるを得ません。
今後の方向性:スタートアップ的な考え方を取り入れ、スマートな連携や柔軟なソフトウェアの提供を実現する
安全性の確認や適切なユーザーテストは当然必要ですが、市場投入については、数年ではなく数か月のスパンで戦略を立てていくべきです。自動車メーカーは考え方を変えなければなりません。Android Autoや Apple CarPlayといった既製の仕組みを利用して、時間を節約している会社も多くあります。Starでは、クライアントの個別ニーズに応じてカスタマイズできるデザインテンプレートのライブラリを充実させることで、迅速な対応を実現しています。また、Starはクライアントに対し、ネットワーク接続された柔軟なソフトウェアプラットフォームを整備して、新機能や製品のアップデートを展開していくことを勧めています。
課題:地域の違いは、自動車のHMIデザインにどう影響する?
地域ごとの特性を理解し、それに対応するソリューションを大規模に展開していくのは、並大抵のことではありません。法律や交通のパターン、ドライバー行動の違いも考慮に入れなければなりません。英国とインドのユーザーの好みを比較した調査では、自動車向けHMIデザインの多くは、西洋の運転者の好みに基づいており、文化の違いによる影響を見落としていると指摘しています。この調査は2014年のものですが、地域の違いを考慮したデザインについては、現在でもまだ多くの課題があると言えます。
今後の方向性:地域に応じた柔軟なHMIを構築する
自動車メーカーは新しい市場に進出する際、地域の特性を考慮する必要があります。たとえば、Starが、SAIC Motorの自動車向けソフトウェア開発会社SAIC Oversea Intelligent Mobility Technology(OIMT)と提携して、インドとタイのミレニアル世代を対象とした新しい電気自動車のHMIデザインを構築した際には、接続性や音声技術、デジタルタッチポイントなどについてトレンドのテクノロジーを取り入れました。この地域のターゲットユーザーは、他の市場よりも、次世代機能や特殊効果を高く評価するとわかったからです。
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課題:HMI機能の利用を促進し、使いやすさを向上させるには?
メリットが明らかで、直感的に操作できるツールでなければ、ユーザーに使ってもらえません。複雑なHMIでは、利用してもらえる確率が大きく下がります。新たな購入者を引き付け、既存ユーザーとの関係を深めるためには、優れた車内インターフェースの構築が重要です。車へのADAS(先進運転支援システム)の搭載が進むにつれて、HMIを通じたドライバー教育の重要性も高まっています。ユーザーに最新情報を効果的に伝える工夫が求められているのです。
今後の方向性:テック企業的なアプローチで、ソフトウェアのエコシステムを構築する
車を電子機器のような製品にするには、まず最新型の柔軟なプラットフォームを導入することです。次にGoogleやAppleのようにユーザーデータを収集して、顧客の理解を深め、HMIを継続的にアップデートしていきます。ネットワーク接続されたシステムにより、ユーザーに新機能や更新の情報を定期的に通知します。高価だったりハイテクだったりしなくても、工夫次第でユーザーに大きなメリットを届けられます。StarがNIOと共同開発した愛らしい車内コンパニオンは、高級車の車載機能よりも安価ながら、感情的なつながりを育み、ブランドの差別化に貢献しました。
課題:HMI開発におけるパーソナライズとは? 実際にどの程度のカスタマイズを提供する必要がある?
NetflixやHulu、Amazonといったサービスにより、日常生活にパーソナライズが浸透している中、消費者は車にも同様の機能を期待していると考えられます。ただ、消費者が実際にどの程度のパーソナライズを望んでいるかについては、確かなデータはありません。車両自体のパーソナライズに関しては、各社がさまざまな戦略で取り組んでいます。たとえば、テスラはカスタマイズできる範囲を限定していますが、Lucidはより広範なパーソナライズを提供しています。運転体験に関しては、多くの自動車メーカーが、どの程度のパーソナライズを提供すべきか決めあぐねている状況です。
今後の方向性:未来予測よりも顧客体験の充実を重視する
個人の好みに応じた車内設定(シートの高さやオーディオの設定など)を保存することは、スマートカーに欠かせない機能です。ユーザーにとっては、これもパーソナライズの一部だと受け取られているかもしれません。このような基本的な車内UXは、ユーザーに車をスマートだと感じさせ、愛着を醸成するため、失われつつある自動車ブランドへのロイヤルティ向上に貢献します。ユーザーは車が好みを理解してくれていると感じると(つまり、自動車メーカーが、アプリ間でユーザーデータを連携させてシームレスな運転体験を生み出していると)、ブランドへの愛着が高まり、他社の車に乗り換える可能性が低くなります。
自動車メーカーは、車が実際にどのように使われるのかを理解し、それに応じたデザインを行って、ドライバーや乗車者が個人設定(照明、温度、音楽、ディスプレイなど)を簡単に調整できるようにする必要があります。祖母の誕生日のお祝いに向かう家族のニーズは、通勤者や初デートをするカップルのニーズとは異なります。ただ、このようなイベントを車が事前に予測する必要が、果たしてあるでしょうか? パーソナライズとは、つまるところ仮説に依存します。あなたが今日は魚が食べたいと思ってレストランの席につくと、注文する前からウェイターが普段の好みを予測してステーキを持ってきたらどうでしょうか。つまり、自動車メーカーは、将来を予測するよりも、優れた顧客体験の創出に重点を置くべきです。今後、ますます多くの自動運転機能が登場してくる中で、自動化と手動操作のバランスを取るためのパーソナライズは、より重要になっていくでしょう。
課題:自動車向けのHMIとモバイル機器の関係は?
いくらユーザーが常にデバイスとつながっているからといって、運転中にそれを操作するのは安全ではありません。自動車向けHMIデザインで重要な要素のひとつは、ドライバーが運転への注意力を妨げられることなく、必要に応じてモバイル機器のアプリと対話できるようにすることです。たとえばHMIは、今から会う予定の人からのメッセージなど重要な情報は提示しながらも、緊急性の低い通知は除外するという門番の役割を果たせます。運転の安全性を確保しながら、モバイルアプリ体験を充実させるのは簡単ではありませんが、その両立は不可欠です。
今後の方向性:競争せず、補完する
自動車メーカーが目指すべきは、従来のモバイルアプリの代わりに自社のアプリを使ってもらうことではなく、両者を統合して拡張していくことです。自動車のHMIには、画面が大きいという利点があり、モバイルアプリと同様の機能を別の方法で、より安全に提供できる可能性があります。たとえば、HMIを通じて、ドライバーがお気に入りの音楽サービスを簡単にストリーミングできるようにしたり、曲の雰囲気に合わせて室内照明を調整したり、アルバムのカバーアートを魅力的な方法で表示したりすることで、使用体験を高められるでしょう。
自動車向けHMIデザインの原則とヒント
データやテクノロジーに直感的なデザインを組み合わせ、完璧なタイミングでサービスを提供する優れたHMIを構築できれば、ユーザーはまるで魔法のように感じることでしょう。乗り越えるべき課題はありますが、自動車のHMI設計は、まさにインターフェイスデザイナー冥利に尽きる仕事です。実際のプロジェクトは多岐にわたるものの、そこには基本となる原則があります。Starが仕事の基盤としているデザインの原則とトレンドを以下に紹介します。
- 何よりも安全が最優先:デザインする際は、あらゆるタイミングでの利用を想定して、安全性を考慮しましょう。車内UXの安全に関するベストプラクティスは次のとおりです。
- 人間の脳は一度に多くの情報を処理できないため、最小限の関連情報を適切なタイミングでユーザーに提供します。
- 読みやすさ(コントラスト、大きさ、フォントなど)に配慮し、画像よりもピクトグラムを使用します。
- 音声や触覚での入力など、複雑な状況でも処理しやすい、視覚以外で情報をやり取りできる新しい方法を探ります。
- 人間中心のアプローチを忘れない:運転者の多様な使用事例やカスタマージャーニーを把握して、さまざまなニーズや運転体験、文脈、状況を補完するようなHMIをデザインします。基本的なニーズへの対応や使いやすさへの配慮に加えて、先進テクノロジーへの要求にも応えていく必要があります。
- 適切なハードウェアを用いる:HMIのソリューションは、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、後部座席のエンターテインメントシステム、ハンドルに配置された操作機能、計器類、音声アシスタントのインターフェイスなどで実現されます。適切なディスプレイ、処理能力、接続性を選択することで、使いやすいソフトウェアの基礎が築かれ、ユーザーに喜びをもたらす車内UXにつながります。
- 素早い開発と検証を繰り返す:作成したインターフェイスが実際にどのように使われるかを確認することで、多くの学びが得られます。プロトタイプを早期にテストし、工程を通じてテクノロジー部門や開発部門の意見も聞きます。助言や指摘を柔軟に受け入れる姿勢が重要です。この分野は絶えず変化しています。ユーザーに驚きをもたらすような新しい技術が毎日のように登場しているため、改善のプロセスを継続して実施していく必要があります。
- 細部へのこだわりや職人技も重要:多大な努力を注いで素晴らしい車両を製造している自動車メーカーは、車内インターフェースにも同様に取り組む必要があります。適切なテクノロジーを導入して必要なツールや機能に対応するだけでなく、車両と調和した、有機的で運転体験全体を統合するような車内HMIのデザインが求められています。
- スピードメーター以上のものを生み出す:画面やセンサーは空白のキャンバスのようなものです。単に従来のスピードメーターのデジタルコピーを作成するのではなく、より広い視野で創造的に考えましょう。革新的な企業は、アニメーションや触覚反応などを用いて、現実世界では再現できないような体験を生み出しています。
- 自動化だけでなく、会話にも着目する:消費者がAlexaやGoogle Home、Siriと、どのようにやり取りしているかを考えてみましょう。人々は自らが望むことを伝え、テクノロジーがそれに応えます。テクノロジーが決定を下すのではなく、ツールや情報を使ってユーザーに力を与えています。
Starの方法:グローバルな経験 + スタートアップのマインド + 職人技
自動車向けHMIデザインの支援において、Starは唯一無二の存在です。当社はHMI開発に固有の課題を理解し、それを創造的な方法で解決できます。戦略家、デザイナー、開発者、エンジニアからなる協調性の高いチームが、すでに販売されている車、生産中の車、5年以内に市場投入予定の車に向けて、多彩なHMIエクスペリエンスを創出しています。
現在可能なことと、将来可能になることを把握して、拡張性の高いソリューションを迅速に生み出し、製品のプロトタイピング、テスト、改良にもアジャイルなアプローチで対応します。Starのスタートアップ精神が、スピーディーな対応に慣れていない自動車メーカーの力を補います。ただし、そのスピードは職人技を犠牲にするものではありません。細部へのこだわりも重要です。配慮の行き届いたStarのチームが、完成度の高い「ピクセルパーフェクト」なHMIを実現します。
画像出典: Fortune, Core77, verywellfamily, BMW Group