会話型インターフェイスが、医療へのアクセシビリティを高める

Oleksii Tymokhovskyi

by Oleksii Tymokhovskyi

医療分野での会話型インターフェイスの活用 R1hbapm

人工知能とデジタルヘルスのソリューションが、より良い医療の実現に向けて、数々の新しい機会を生み出しています。医療従事者が献身的な努力を続けている最前線での活動はもちろん、それ以外の医療システムと人々とのさまざまな接点においても、新たなアプローチが生まれています。

患者さんは多くの場合、自身で複雑な問題に対処しなければなりません。医療システムを理解して利用するだけでも簡単ではないうえに、複雑な保険適用や償還の仕組みを読み解き、必要なケアを受けられるよう手配する必要もあります。病を抱えた身にとって容易なことではありません。

一方、医療提供者は、文字起こしや書類への記入、管理業務といった作業に多大な時間が取られています。その結果、患者さんと向き合う時間が圧迫され、ストレスのさらなる増加にもつながっています。

今、医療を革新すべきときです。新型コロナウイルスの流行がもたらした数少ない前向きな側面のひとつは、新しいデジタルヘルステクノロジーを積極的に取り入れる動きが生まれたことです。遠隔医療やデジタル治療デジタル音声アシスタントなど、デジタルヘルスが患者さんの健康状態を向上させ、医療提供者の負担を軽減しようとしています。

この革新の要となるのが会話型インターフェイスです。音声やテキストなどのコミュニケーション手法を組み合わせることで、より良い医療システムを実現できるはずです。

会話型インターフェイスとは?

会話型インターフェイスとは?

会話型インターフェイス(会話型ユーザーインターフェイス=CUIとも)は、人間の実際の会話を模したインターフェイスです。ここ数年で、私たちの身の回りにあるさまざまなアプリケーションで、このタイプのインターフェイスが見られるようになっています。仕事で使われるSlackbotや、バンク・オブ・アメリカの「Erica」のような銀行・フィンテック系アプリのバーチャルアシスタントなどがその例です。

一般的なタイプとしては、AlexaやSiriといった音声アシスタントと、入力した文章でやり取りするチャットボットの2種類に分けられます。会話型インターフェイスは、人とコンピューターのやり取りを円滑にするテクノロジーとしてだけでなく、コミュニケーションの新しいパラダイムだと考えるべきです。

会話型インターフェイスにより、コンピューターと人間は翻訳者なしで同じ言語を話せるようになり、より簡単で自然なコミュニケーションが可能になります。意外かもしれませんが、会話型インターフェイスには長い歴史があります。まず1960年代に、簡単な会話をシミュレートする文章ベースの対話ツールが登場しました。1980年代以降は、マイクロソフトのクリッピー(Clippy)など、日常的に使われるサービスにも導入され、少しずつ世の中に浸透してきました。

ただ、現在のインターフェイスには、以前のものとは異なる点があります。それは、もはや単に会話を模倣したものではなくなっていることです。つまり、定型文による回答ではなく、人工知能や自然言語処理により、機械は自発的に人間とコミュニケーションしているのです。まだ完全にスムーズな会話を実現できているとは言えませんが、機械と人間との差はますますなくなってきています。

医療分野への会話型インターフェイスの導入

医療提供者や患者さん、保険者、その他の関係者にとって、会話型インターフェイスは大きな変革をもたらす可能性があります。何よりもまず、デジタルフロントドア(ユーザー接点)で成功するために不可欠なツールとなるでしょう。

たとえば、患者さんがケアを必要としていても、医療システムを理解して利用するのは簡単ではないことがあります。従来の医療システムでは、患者さんと医療提供者の双方にとって、診察のスケジュール管理や経過の追跡、積極的な関与の促進などに常に課題がありました。そこに会話型インターフェイスを導入することで、患者さんにとって使いやすい予約ツールを作成でき、医療提供者の負担も軽減されます。これだけでも、患者さんにとってはハードルが大きく下がり、必要なケアを受けやすくなります。

会話型インターフェイスがもたらすメリットはこれだけではありません。繰り返しになりますが、これはひとつのテクノロジーではなく、新しいパラダイムなのです。つまり、会話型インターフェイスは、より広範なデジタルサービスの枠組みに統合され、利用者の生活にシームレスに浸透していくと考えられます。

たとえば、Babylon Healthは、ツールの多くに会話型ユーザーインターフェイスを取り入れています。同社のアプリでは、毎日24時間利用可能な予約機能や、即時に入手できる健康情報といったツールを利用する際に、会話型のインターフェイスを使って操作を行えます。

医療分野への会話型インターフェイスの導入

Babylonは患者さんだけでなく、医療提供者、製薬会社、保険者、さらには英国のNHSのような国の医療制度とも連携し、あらゆる接点に会話型インターフェイスを導入して対話をスムーズにしています。

その結果、エンゲージメントの向上や、負担の軽減、ワークフローの改善、ビッグデータの効果的な活用が可能になります。さらに、時を経るにつれてデータが蓄積され、機能がよりスマートになっていきます。

会話型UIの課題と可能性

比較的長い歴史があるとはいえ、会話型インターフェイスはまだ初期段階にあると言えます。エンドユーザーは、機械と会話することに、依然として違和感を覚えるかもしれません。価値が感じられなければ、人々は利用してくれません。そうなると、このパラダイムがもたらす本当の利点を十分に活用できなくなります。

この課題を克服して、会話型UIの可能性を最大限に活かすために、ヘルスケア企業は次のような点を意識する必要があるでしょう。

1. スムーズな体験を構築する

システムがユーザーをきちんと理解できていないと、チャットボットや音声アシスタントとの会話は心地よいものではなくなります。たとえば、診察の予約や処方箋の記入などを行うのに、やり取りが多すぎると、かえって不便です。

利用時の新たな障壁となったり、複雑さが増したりすると、それは解決策とは言えず、長期的なエンゲージメントも低下してしまいます。とくに医療分野では、他の業界よりもこの点を重視する必要があります。ユーザーはすでに、自身の健康状態の管理や膨大な作業負荷といった、大きな課題を抱えているからです。

このような問題を避けるには、基礎となる包括的な知識ベースやデータセットを整備する必要があります。それにはAIの判断と、手動で作成したナレッジベースを統合し、入念なテストを行って、真にシームレスなサービスを実現していくことが重要です。これを、必要に応じてニューラルネットワーク上に構築された学習システムと組み合わせ、推移を確認しながら、サービスが時間の経過とともにスマートになっていくような仕組みを整えます。

2. テクノロジーではなくパラダイムとして捉える

会話型UIは、チャットボットや音声アシスタントといった個別のテクノロジーとしてだけでなく、より大きな視野で捉えるべきです。デジタルヘルスの成功に重要なのは、人々が近づいてくるのを待つのではなく、人々がいる場所にこちらから近づいていくようなアプローチです。

テキスト、音声、動画、センサーなど、モダリティ間を自由に行き来できるような柔軟性をユーザーに提供することが大切です。それにより、人々に継続的に利用してもらえるだけでなく、健康状況の改善やコスト削減、医療従事者の負担軽減につながります。

会話型UIの課題と可能性

3. ユーザー教育

Starは、ユーザー教育の重要性を常に強調しています。新しいテクノロジーに投資する際には、それがもたらすメリットをエンドユーザーに正しく伝えることが重要だからです。

ユーザーはテクノロジーに慣れていない場合があり、簡単には使い始められないことがあると認識しましょう。

講座や記事、ブログ投稿、チュートリアルなどを提供することで、ユーザーはそのテクノロジーを使うメリットを理解でき、利用時の敷居が下がります。幸いなことに、会話型インターフェイス自体はすでに広く浸透しています。次のステップとして必要なのは、なぜそのサービスを利用すべきなのかという理由を説明することです。

医療における会話型インターフェイスの未来

会話型インターフェイスが医療にどのような影響を与えるかについて、参考になる事例があります。Starは、長年に渡りさまざまな業界の企業に協力してきました。中でも特筆すべきコラボレーションが、世界初の車内コンパニオン「Nomi」のプロジェクトです。

Nomiは、ハンズフリー操作はもちろん、よりパーソナライズされた没入型体験を車内にもたらす音声アシスタントです。Nomiはデジタル化が加速する車載サービスにふさわしいソリューションとなりました。

Starは、このようなツールやテクノロジーを医療分野にも応用し、あらゆる関係者により良い体験を届けられるよう支援しています。たとえば、私たちが最近注目しているのは、赤ちゃんの泣き声を「翻訳」するZoundreamのテクノロジーです。Zoundreamは、泣き方の微妙なニュアンスの違いを認識し、保護者が対処できるよう5つの基本的なニーズに分類して提示します。この技術は実用化の一歩手前まで来ており、ユーザー登録すれば、テスト段階のサービスを試用できます。

zoundream

会話型インターフェイスのデザインに、自然言語理解、人工知能、モノのインターネット(IoT)などの要素を組み合わせることで、たとえば麻痺や昏睡状態にある人の感情やニーズも認識できるのではないかと、私たちは思い描いています。このような可能性は無限にあります。

会話型インターフェイスへの取り組みには、すぐに着手できます。Starは、ZEISSConstant TherapyClarify Healthなどとのコラボレーションを始め、患者エンゲージメントの向上やワークフローの最適化など、さまざまな領域でデジタルヘルステクノロジーの導入に取り組んでいます。ぜひStarのデジタルヘルスの専門チームまでご連絡ください。私たちが提供できる支援についてさらに詳しく説明いたします。

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Star UXデザインリーダー

StarのUXデザインリーダーを務めるOleksii Tymokhovskyiは、アドテック部門と健康&ウェルネス部門で、B2BおよびB2C向けに3年以上にわたってユーザー中心の製品をデザインしてきました。UX分野での10年の経験を活かし、ユーザーエクスペリエンスを重視したビジョンの構築や、無駄を削ぎ落としたリーンアプローチの実践、デザインによるビジネス価値の向上を支援しています。

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