洋の東西を問わず、都会でも地方でも、多くの場所でグローバルサプライチェーンが直面する危機の影響が見られ始めています。例えば米国では、フリート(商用車)マネジメント業界は400万人近い商用運転免許保持者を雇用し、合計11.5兆ドル規模の貨物輸送の70%を担っています。それほどまでに私たちの生活に不可欠なこの業界は、今、大きな挑戦と変革の時を迎えています。激動の時代を乗り越えるためには、テクノロジーを活用したフリートマネジメントの構想が鍵を握ります。
そこで今回は、ELMS、CloudMade、Starから専門家を招き、コストセンターとされてきたフリート部門が、テクノロジーによってどのように付加価値を高め、成長を加速させられるかについて議論しました。接続性、スマート性、インテリジェンスという3つの領域に着目することで、フリートはより高い価値、生産性、強靭さを持つ存在へと進化できます。
フリートマネジメントの革新がもたらすメリット
3名の専門家は、新しい技術や手法を活用したフリートマネジメントの例を紹介しました。Jonathan氏は、フリート管理にデータや人工知能を効果的に活用することで、環境汚染や交通量の抑制に加えて、「事業の生産性を大きく向上させ、あらゆる顧客体験に影響を与えるでしょう」と話します。
具体的には、現状では4〜8時間かかる車両のメンテナンスの効率化や、バリューチェーン全体での荷物の追跡、より正確な環境負荷の算出などです。
その他にも、運転手や交通の安全性向上、保険料の削減、予防保全、そしてビジネスとして重要な稼働率の改善など、フリートマネジメント技術の革新は、さまざまなメリットをもたらします。
フリートの所有者は、当然ながら所有コストを重視します。事業として成功させるには、大きな資本・資産を活用しながら、運用コストを抑えていかなければなりません。
このバランスをとっていくことに加え、パンデミック後の複雑な状況、ドライバーの不足といった課題にも対処するために、今こそイノベーションが強く求められているのです。
Jonathan氏は、「フリート管理の新しいコンセプトやアイデアとともに、接続性やデータ、ソフトウェアが充実してきており、さらなる拡大の余地もあります。これらをさまざまな領域で活用することで、ダウンタイム(稼働停止時間)ゼロを目指せるでしょう」と述べ、テクノロジーがフリート管理コストの削減を加速させると説明しました。
例えば、ビッグデータと高度な分析を活用することで、フリート管理者はより効果的なルートを計画でき、荷受け施設との調整を分単位で行って、荷下ろし時間を短縮できます。各プロセスで1分でも短縮できれば、全体として大きな効率化につながるはずです。
つまり、テクノロジーによって、従来はコストセンターとされていたプロセスが、会社に大きな価値をもたらす存在になるのです。
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接続性から真のインテリジェンスを導く
今日の車両には、かつてないほど多くのテクノロジーが搭載されています。そのためフリートがネットワーク接続されると、車両から情報を収集し、「遠隔測定とAIの活用による、安全性、追跡・監視、コンプライアンス、セキュリティの向上」が可能になるとGoffは説明します。これらはすべて、フリート管理ソリューションの重要な構成要素となります。
ただ、このようなデータは、1台の車両や1つの組織の中で孤立しているケースが多く見られます。フリート管理企業は「ある車両が生成したデータを、他の車両のデータと組み合わせ、さらに第三者のデータも取り込んで、すべてを融合した高次の情報を得る」必要があるとJonathan氏は指摘します。この「高度な接続性」がフリート管理イノベーションの第1段階です。
第2段階が「スマート化」です。これは得られた情報を理解し、新しい方法で車両に適用していくプロセスです。Jonathan氏は「情報をどう活用するかは、最も興味深いポイントです。それがスマートさとインテリジェンスの境界線になります。スマートさとは思考する能力、インテリジェンスとは学習する能力です」と説明します。
これがAIを使ったデジタル変革の第3段階につながっていくとJonathan氏は言います。「高品質データの収集、接続性の組み込み、スマート化により、推論と訓練を繰り返すループを作成できるようになります。データを多く集めれば集めるほど、アルゴリズムが適切に訓練され、システムが向上していきます」
電動化における課題と可能性
フリート管理テクノロジーのトレンドを語る際に大きな話題となるのは、カーボンニュートラルへの取り組みとしても期待される、電動化です。
Sebastian氏は「EV(電気自動車)分野への参入は、環境に良い影響をもたらす大きな機会であると同時に、複雑な問題も生み出します」と指摘し、フリート企業が検討すべき課題として次のような点を挙げます:
- どのような車両からEV化するべきか?
- 仕事の割り振りやルート選択にどのような影響があるか?
- スケジュール作成・管理にどのような影響があるか?
- 全車両を対象とするのか、一部だけを対象とするのか?
フリートマネジメント業界には大小さまざまな規模の企業が存在しますが、Sebastian氏は、小規模だからといって大きく不利になるとは考えていません。小規模事業者はより効率的な運用を行い、変化に俊敏に対応できるからです。特に、電動化のプロセスから得られる学びを活かしやすいといえます。
一方、すべての企業に共通する大きな課題として、EVデータへのアクセスに共通の基準がないことをRyanは指摘します。エンジン車では効率性についての基準が定められ、政府機関によって管理されています。しかし、EVの車両データには、まだそのような基準が存在しません。「共通のデータを集約する機関がないまま、各社が独自のEVソリューションを市場に投入している状態です」
Ryanはそこにサービス事業者やメーカーが、「データを集約して、より深い分析や共有ができるような、共通のデータレイクを作る」大きなチャンスがあるとみています。
つまり、破壊的革新を起こして、データを集約して標準化を進めれば、インテリジェントシステムの構築に必要な高品質なデータを入手できる可能性があります。
欲しいデータを明確に伝える
データは、テクノロジー革命の原動力です。ただ、そこにはコンプライアンスや透明性、プライバシーの問題も生じます。Sebastian氏は、明確で透明性のあるデータ利用ポリシーの策定が重要だと話します。そこでは業界やフリート管理者だけでなく、ドライバーへの実際的な価値の提供が不可欠です。データを提供してもらう代わりに、「コーチングやゲーミフィケーションの機能を実装し、ドライバーが安全性や燃費について良い結果を出したら特典を得られる」ような仕組みを構築すべきです。そうすることで、より多くのドライバーがすすんでデータを提供し、フリート業務全体の目標達成につながっていくでしょう。
どのようなデータを求めているのかを明確かつシンプルに伝えるとともに、利用者にデータ提供の選択権を与える必要があります。そして最も大事なのは、利用者にもたらされるメリットを伝え、プライバシーが尊重されると保証することです。それがフリートシステムのデジタル化で真の成功を収めるための鍵となります。Sebastian氏が言うように「ユーザーが自身のデータの主人になれるように」することが大切なのです。
ポッドキャスト本編で、フリート管理テクノロジーを詳しく解説
今回はフリートマネジメントについて、専門家による対談の一部をご紹介しました。ポッドキャスト本編では、今後のフリート運用の進化、10倍の成長を可能にするテクノロジー、ハードウェアとソフトウェアのソリューション統合の重要性、真の効率性の達成方法など、近い将来の予測にも踏み込んだ内容が語られています。
また、二酸化炭素排出量削減への取り組みでしばしば議論される「電動化がすべてではない」というテーマにも触れています。例えばSebastian氏は「本当の意味で影響を最小化するには、走行距離をゼロにすること」だと指摘しています。
その他、業務効率の向上、コスト削減、管理者とドライバーの満足度向上、それらを可能にする技術などに焦点を当てて、ディスカッションが展開されています。ぜひお聴きください。