今ようやく、人々が自らのメンタルヘルスについて話せる時代が訪れようとしています。芸能人や政治家、ビジネスリーダーをはじめ、多くの人が心を開いて自らのことを語り、メンタルヘルスを取り巻く偏見が取り除かれつつあります。
同時に、デジタル治療(DTx)やメンタルヘルステクノロジーが急速に広まり、アクセス性や治療成果の向上、コスト削減、医療提供方法の革新などが実現し始めています。
この動きは患者さんや医療提供者、企業にとって、どのような意味を持つのでしょうか? Starのポッドキャスト『Shine』では、Happify、Mymee、Rock Healthからのゲストを迎えて、メンタルヘルスの革新をテーマにしたエピソードをお届けしています。
メンタルヘルスの新時代
メンタルヘルスは、世界レベルで取り組むべき課題です。現在、世界で9700万人が精神疾患を患っており、そのうちの60%が治療や診断を受けていない状態にあります。このことは個人、社会、世界レベルで甚大な影響を及ぼします。精神疾患によって、2030年までに世界経済は年間16兆ドルの損失を被るようになると予測されています。
新型コロナウイルスは、私たちのメンタルヘルスとの関わり方を大きく変えました。Megan氏は「パンデミックの前から、メンタルヘルスに関する支援への需要は、医療提供者や専門家による供給量をはるかに上回っていました。セラピストと1対1で面会する方法では、この需要と供給のミスマッチに十分に対応できません」と述べ、そこにテクノロジーが大きな役割を果たす領域があると言います。「ユニークな方法でメンタルヘルスの治療モデルを拡張する、さまざまな種類のテクノロジーソリューションが登場しています」
Chrisは、デジタルバイオマーカー、視線追跡、自然言語処理といったテクノロジーをメンタルヘルス分野で活用することで、「実際の医療提供において、より効果的で効率的な方法を生み出せる」と話します。実際、スマートフォンのタップやスワイプの仕方といった些細な行動の分析からも、精神的な健康状態を知る手がかりが得られるようになっています。
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ポッドキャストは英語で提供しています
DTxの詳細や規制状況、メンタルヘルスについて理解する
デジタル治療(DTx)とは、エビデンスに基づいて臨床的な評価を行なったソフトウェアを用いて、患者さんに直接、治療的介入を行い、行動、精神、身体に関わる広範な疾患や障害を治療、管理、予防することを言います。
これはまったく新しい治療方法のため、規制環境もまだ現実に追いついていません。PearやAkiliなどの企業がFDAの承認を取得しましたが、承認の手続きにはさらなる合理化が求められます。
メンタルヘルスの医療的介入についての議論も複雑です。現在のところ、DTx事業者とFDAは、用語の使い分けについて一定の合意を見ています。これについてAcacia氏は「『管理』と『治療』のどちらのカテゴリーに属すか」がポイントだと説明します。つまり、「治療」に関する訴求にはFDAの承認が必要であるのに対し、「管理」に関する訴求には(業界のベストプラクティスに従ってさえいれば)一般的に承認が必要がないとされています。「『治療』という言葉を使わずに精神疾患を対象とすることも可能であり、実際それで多くのことを行えます」
その優れた実例が、Happifyです。Happifyは治療効果を謳う代わりに、同社の主力製品は「科学に基づいたアクティビティやゲームにより、ネガティブな思考やストレス、人生の課題の克服に役立つ」と説明しています。数百万のユーザーを擁し、米国の4大保険事業者と提携していることからも、同社が正しい道を歩んでいることは間違いないでしょう。
Megan氏は、Rock Healthの製品ラインナップから「Marigold」を例に挙げました。Marigoldは、精神疾患や物質使用障害のある人々がお互いに支援し合う、オンラインの治療プログラムです。これは単なるコミュニティではありません。アルゴリズムが「感情分析により、再発の兆候が見つかれば注意喚起する」ため、ケースマネージャーは、膨大なチャットデータを読み込むことなく、誰が支援を必要としているかをすぐに把握できます。これもデジタルヘルスのテクノロジーがもたらすメリットの一例だと言えるでしょう。
ホリスティックな個別化医療へのアプローチ
Mette氏は医療全般について、「ひとつの治療をほぼすべての人に当てはめようとする方法から、一人ひとりに合った治療を行う方法へとアプローチが変化しつつある」と話します。従来の治療は、ほぼすべての人に効果をもたらすよう設計されてきました。言い換えると、一人ひとりを見た場合、その人に必ず効果があるという保証はありませんでした。それに対し、現在、デジタルヘルステクノロジーによって、本当の意味での個別化医療が実現しつつあります。
MymeeのCEOを務めるMette氏は、このテーマについてユニークな視点を提供してくれました。Mymeeは、自己免疫疾患に苦しむ人々向けに、症状の追跡、データ分析、ヘルスコーチを提供しています。一見、自己免疫疾患とメンタルヘルスは関連がないように思えるかもしれませんが、実際、両者は密接につながっていることが研究によって次々と示されています。
慢性疾患を抱えている人は、それが不安症や抑うつを引き起こすことを知っています。Mette氏は、Mymeeにサポートを求めてきた43歳の男性患者を例に出してこう話します。「当社のプログラムを利用してから4週間で、その男性のパニック発作は身体的な原因で生じていることがわかりました」。チームは、パニック発作が食道閉塞の11時間後に発生することを発見。食道閉塞が解消されると、その6日後には「不安感が著しく減少し、パニック発作が起こらなくなった」ことが確認されました。
この例は、今回のポッドキャストの重要なテーマにつながります。つまるところ、DTxを始めとするデジタルヘルスのイノベーションは、魔法の薬である必要はありません。健康へのホリスティック(包括的)なアプローチも、それと同じくらい価値があるのです。
Megan氏は、デジタルヘルス分野の主要企業であるOmada社のアプローチに言及し、「人々が慢性疾患を効果的に管理する上で、メンタルヘルスは非常に重要な役割を果たします。そのため同社は、自社のサービスにメンタルヘルスを取り入れました」と話します。このことは科学的にも裏付けられています。
研究によると、慢性疾患患者の治療アドヒアランスの不実行率は、うつ病を患っている人では3倍高くなることが示されています。DTxの利点は、他のバイオ医薬品を使う治療とは異なり、あらゆる既存の治療法と容易に併用できることです。
メンタルヘルスのサービス利用のハードルを下げる
医療にはお金がかかるものですが、メンタルヘルスは、その課題に加えて、偏見とも闘わなくてはなりません。これまで、たとえば雇用主が従業員にメンタルヘルス関連のサービスを提供した場合でも、多くの人は自分のキャリアに影響するのではないかと恐れ、利用をためらうことがありました。
新型コロナウイルスがその偏見をいくらか取り除いてくれたことに加え、デジタル治療もサービスの利用しやすさに大きく貢献しています。ここにもテクノロジーが持つ可能性が見られます。Acacia氏は「人々が置かれている状況に合わせた方法で、うつ病や不安症の解消への取り組みの敷居を下げられる可能性がある」と話します。うつ病などメンタルヘルスの問題を抱える人々にとって、これだけでも、助けを求めたり、治療を受けたりするためのハードルが下がるはずです。
Chrisは、この課題に対し、バーチャルアシスタントが重要な役割を果たしているとし、「まだ改善の余地はあるものの、少なくとも偏見を持たない」という利点があることを説明しました。これは重要なポイントです。調査から、人は人間に対してよりもロボットに対しての方が、より正直になることがわかっています。さらに、ロボットは金銭的なコストも手頃で、大規模な展開も容易です。Chrisは、バーチャルアシスタントは高齢者の役に立つことがすでに実証されており、スマートスピーカーを使って簡単に実装できると述べます。
このようにハードルが下がることで、予防医療へのシフトがさらに進むだろうとAcacia氏は指摘します。メンタルヘルステクノロジーにより、「もぐらたたき」的なアプローチに代わり、個別化した医療にいっそう焦点が当たるようになるでしょう。
本編にてメンタルヘルステクノロジーのさらなる洞察をお聞きください
ここでご紹介したのは、ほんの一部に過ぎません。ポッドキャストの本編では、ヘルスケア業界のリーダーたちが、可能性を秘めたビジネスモデルや、エンゲージメントの促進要因、ヘルスケアとテクノロジーへの大幅な投資増の理由、メンタルヘルスの未来など、さまざまなテーマを掘り下げています。ぜひお聞きください。また、お使いのポッドキャストアプリで「Shine: a podcast by Star」を検索・登録いただくと、貴重なエピソードを逃すことなくお聞きいただけます。