社会の高齢化が進んでいます。今後数十年で、ベビーブーマー世代の高齢化に加え、出生率の低下と平均寿命の伸びにより、65歳以上の人数と全人口に占める割合が、さらに増加していくと予測されています。
高齢化社会が到来すると、さまざまな問題が生じるでしょう。高齢者はどこで暮らすべきか? 介護のニーズが高まるなか、どのようにサポートを受ければよいか? 自立した生活を維持するには?といった課題に対応しなければなりません。
高齢者の90%は、自宅や住み慣れた地域で暮らしたいと考えています。今、新しいテクノロジーの登場により、それが可能になりつつあります。
この記事では、高齢化社会に向けた課題と、それを克服するための方法について検討し、Starがヨーロッパで展開している、高齢者と介護事業者をつなぐプロジェクトを紹介します。
高齢化社会に向けて急務となるイノベーション
新型コロナウイルス禍で明らかになったのは、世界の医療システムの綻びです。世界各地で、大量の新規感染者に対応する人員が不足しました。最悪の状況は過ぎ去ったように思われますが、今回のパンデミックは、将来の医療システムへ不安を感じさせました。
世界保健機関(WHO)は、2030年には1800万人の医療従事者が不足すると予測しています。米国だけでも毎日1万人が65歳に到達しているなか、このままではいずれ持ち堪えられなくなるでしょう。医療ニーズが高まることで、それに伴うコストや必要なリソースも増加していきます。
また、現在の住宅の多くは、移動が不自由になった人に対応したものではありません。住宅費の負担に苦しんだり、孤立してしまったりする人も出てくるでしょう。
そのような状況に対して、テクノロジーを活用した大胆なソリューションが求められているのです。
高齢化社会に対応するためのデザイン
さまざまな難しい課題がありますが、テクノロジーにより、状況を改善できる分野も数多くあります。Starは、医療従事者の負担を軽減しながら、高齢の患者さんの生活を向上させるソリューション構築に取り組んでいます。
Starは、患者さんと医療従事者の双方にとって、直感的で使いやすいサービスをデザインすることを目標としてきました。その際、いくつかの考慮すべき重要なポイントがあります。まず、高齢者の多くは、デジタル技術にあまりなじみがありません。私たちが当然のように使っている「Bluetooth」などの用語は、高齢者にとっては意味がわからない言葉であることが多く、製品の使用を妨げる要因となっています。
幸いにも知識豊富な若い家族がいて、ツールを使いこなせるよう手助けしてくれる場合もあるでしょう。しかし、私たちは、人々が各自で使いこなせる製品を作るべきだと考えました。
高齢者向けの製品を共同開発する際には、ボタンを大きくしたり、インターフェイスをシンプルにしたりといった、特別なデザインを用意するのが一般的です。音声テクノロジー使ったツールなどもよく活用されます。
今回、私たちはさらに一歩踏み込んで、こう考えました。ユーザーがテクノロジーにまったく触れなくてもよい仕組みを作れないだろうか? テクノロジーを人々の生活に自然に溶け込ませられないだろうか?
その結果、生まれたのが、ユーザーがアプリや技術について学習する必要のないソリューションです。その土台となるのは、センサーを監視するAIベースのプラットフォームです。これにより、介護者は、患者さんの健康データを、老年医学の専門家が定めた指標と照らし合わせることで、容易に診断支援を行えるようになります。
センサーとしては、スマート衣服やスマートウォッチなどの健康管理ウェアラブル端末、遠隔監視ツール、自宅内に設置した受動型センサーなどが使われます。これらの機器からの送信データはすべて、自宅内の1つのゲートウェイに集約されます。このデータをアルゴリズムが解釈し、重要な情報を医療従事者に提示します。
これにより、介護者は、患者さんへのケアを増やすべきタイミングを把握して、医師や看護師などを患者さんの自宅に派遣したり、必要に応じて救急サービスや病院のサービスを活用したりできます。
以下のような目標に向けて、Starはデータ分析アルゴリズムを実装し、介護者が健康に関する提案を適切に行えるよう支援しています:
- 高齢者の病院移送率を30%低減
- 入院期間や緊急治療室での滞在期間を30%短縮
- 入院後の自立感の喪失を30%低減
- 孤立感の増大など、関連する社会的課題を20%低減
このソリューションが市場に出てからまだ1年あまりの現在、入院が80%減少し、患者さんの満足度は97%に達しています。
医療従事者の負担を軽減
Starのプラットフォームは、医療従事者の負担軽減も目的としています。患者さんの入院の減少も医療従事者の負担減につながりますが、それに加えて当社が重視しているのは、既存のワークフローとのスムーズな統合です。
そのためには、実際の医療従事者のニーズに合わせて、仕組みをデザインすることが不可欠です。医療従事者はテクノロジーへのリテラシーが比較的高いといえるものの、デバイス疲れを感じているケースが多くあります。ただでさえ忙しい毎日に、使いづらいテクノロジーが加わるとストレスになるのです。そのため、既存のエコシステムに適合し、スムーズに機能する仕組みでなければなりません。つまり、連携と相互運用性がカギを握ります。
Starのソリューションでは、各種データを1つの共通基盤に集約して、目的に応じて利用できるように設計。センサーからの入力データのすべてを、1つのデータベースに変換するアーキテクチャを構築しました。この無限に拡張可能な構造により、今後、新しい技術が登場しても、スムーズにシステムに追加できます。
Starのヘルステックのガイドを活用して、アイデアから、実際に使われるSaMD製品を生み出しましょう。
IoMTプラットフォーム構築に向けた技術的課題の克服
Starは、患者さんと医療従事者に役立つIoMT(医療のIoT)ソリューションの構築を目指してきましたが、その実現までには以下のような課題がありました。
- ソリューションのバックエンド部分を安全かつ円滑に接続・統合すること
- AWSを使った患者データの取り扱いを制限する国・地域の規制への対応
- 動きの多い環境内での厳格なアクセスコントロール
このような課題を解決するために、Starは次のようなアプローチを採用しました。
- すべてのドキュメントと出力のコンプライアンスを確保するために、品質管理システムを導入
- ハイブリッドクラウドソリューションとコンテナ化アーキテクチャを採用し、ソフトウェアとその依存関係を分離した単位でパッケージ化
- 患者さんの健康情報を漏洩させることなく、医師、派遣者、管理者が役割を果たせるような、厳格なアクセスコントロールの実現
このような課題を乗り越え、Starのプロジェクトチームは、「クラスIII」のAI搭載型医療機器を開発しました。連携性と相互運用性を重視しているため、今後開発される新しいデバイスやセンサーにも対応できます。
安定性の高い遠隔監視プラットフォームとして、集約したIoTデータと、患者さんの過去および現在の健康状態に基づいて、適切な通知を介護者に送ることができます。
未来の高齢化社会を見据えて
このようなテクノロジーは、今後さらに発展していくはずです。アルゴリズムの進化により、さらに多くの意思決定を支援できるようになり、場合によっては、医療従事者を難しい判断から解放することも可能になるでしょう。その結果、医療従事者が使える時間が増え、ケアの効率化にもつながっていきます。
たとえば、近い将来、テクノロジーが診断や処方を支援し、自動化も進むことが期待されています。また、AIを活用して患者さんに最適な治療計画を提案したり、医療従事者が膨大な臨床データを分析して、患者さんの健康に関する深い洞察を得たりすることも可能になるでしょう。それにより、医療費の削減や、リソース効率の最大化、集団全体の健康(ポピュレーションヘルス)の管理が実現できるはずです。
このようなテクノロジーに加えて、ヘルスケアアプリやウェアラブル機器の充実により、人々が健康を維持し、必要に応じて早期に治療を受けられるような予防的ケアがさらに促進されるでしょう。
Starのヘルステックで、高齢化社会に対応
高齢化が進む中、社会は今後10年間で多くの課題に直面するはずです。医療をより利用しやすいものにし、医療に関わるすべての人の生活を向上させるには、どうすればよいでしょうか。
Starは、Constant Therapy、Clarify Health、ZEISSといった企業と提携し、世界レベルのSaMD、メドテック、デジタルヘルスケア製品を構築。最終目標を見据えた、大胆かつ革新的なアプローチで、課題に取り組んでいます。ヘルステックの事例の詳細をぜひご覧ください。